決戦(5)
「ツカサにとっても好都合だろう。もし、ヒジリに加えてスメラギまで死んでしまったら、ツカサはこの国に干渉できなくなる。スメラギは安全な場所にいてもらおう。」
「その身体は汝の干渉を受けすぎて、吾の器にすんのは難しいんやけどな。まあええわ。」
「じゃあ、神殿に行ってくる。ツユハライ、一緒に来てくれ。」
俺は席を立った。ツユハライがとてとてついてくる。
俺が祀られている神殿に入る。白い布が掛かった祭壇の奥、俺の神体の封印を勝手に開ける。古びた車輪が姿を現した。懐かしい。ここに祀られて七百年は経つが、外に出たことはない。ようやく日の目を見ることができる。
「スメラギを頼んだよ、ツユハライ。」
「お任せください、主様。」
俺はスメラギの身体から離れた。意識が車輪の方に戻る。五感がなくなったが、スメラギは空っぽになってしまったことが感じ取れる。ツユハライが魂の抜けたスメラギの身体を保護してくれる。
それにしても大きすぎるので、神体の車輪を縮める。手のひらサイズになった。ツユハライとスメラギをおいて、ふわふわと浮きながらツカサたちのところに戻った。この世界の者は、車輪が浮いているくらいで驚きはしない。だからあちこちで聞こえる悲鳴は、俺に関係ないはずだ。きっと。
「ほな行こか、マロウド。」
ツカサは俺の神体を手に取った。素手で触るとは大したものだ。俺に祟る気があればヒジリは灰になってもおかしくない。俺以外の神は結構祟るからな。
「行こう。」
俺は神気を抑えて言った。みんな頷いたが、祀られた神の声を聞いた時のように固まってはいない。調整は上手くいったようだ。
「イクサ、走力を強化してや。」
「御意。」
一行は風のような速さで走り始めた。三時間ほど走った所で、みんなが足を止めた。かなりの邪気を感じる。
「ツカサ、マロウド!」
リュウサキがやってきた。凄まじい邪気だ。祀られた神の神気に匹敵する。隣にいるのはカザハナだろう。大きな邪気をもっている。ちょっと感覚を研ぎ澄ますと、周囲の様子が鮮明に感じ取れた。リュウサキの体調はもう完治しているように見える。
「殺されに来たのかァ?」
「話し合いに来たんだ。」
俺が答えると、リュウサキの視線がツカサの持っている車輪に注がれた。そう言えば、リュウサキには俺の神体が車輪だと伝えてあった。壊してもらうために。
「話し合いだァ?何話そうってンだァ?」
「いきなり殺し合うよりマシやろ?吾は汝のこと殺したってええんやけど、この石頭が…。」
「誰が石頭だ。俺はどちらかというと謝罪したいんだよ。駄目かな?」
リュウサキはどかりと胡坐をかいた。話し合いには応じてくれるようだ。ツカサもリュウサキの対面に腰掛けた。カザハナ、カバネ、ヒサメ、イクサは突っ立っている。
「マロウド、雰囲気変わったなァ。」
「色々あったんだよ。」
「あの約束はどうすんだァ?」
やはり、リュウサキが俺を殺そうとしているのは、約束を果たすためか。俺が死にたがっていたから。見た目に反して律儀な鬼だ。
「保留。それより、貴方たちに力を与えて妖怪や神子にしたのは、俺だ。そのせいで人生が狂った人も多いだろう。まずは謝罪したい。」
この場にいるヒジリ以外の全員が俺に力をもらっている。頭があれば下げたところだ。
「マロウドがいなきゃ、オレァ、ツカサに復讐する機会もなかったンだ。マロウドには感謝してンだぜ。」
「わたくしも、吾が君に同じですわ。」
リュウサキとカザハナは俺に頭を下げた。律儀だ。特にカザハナ。人間だった頃の身分やリュウサキとの関係を完全に忘れて、より大きな妖力を持つリュウサキに付き従っている。
俺はヒサメたちに目をやった。
「ボクたち、神子はそもそもマロウド様に力を願った身ですから…。」
イクサは手を横に振る。俺だって、もし彼に文句を言われたら納得がいかない。
「私は今朝言ったぞ。」
「そうだね、ヒサメ。」
視線は自然とカバネに集まる。
「儂は…正直複雑じゃ。そもそも、マロウド様が人間を妖怪にしているという、その秘密を知ったために儂の一族は口封じされたのじゃろう。…マロウド様がいなければ、こんなことには…。」
俺はツカサと俺が何をしてきたのか、すべて打ち明けようとした。ツカサは止めようとしたが、俺は神力を発して威圧する。関係ない者まで震えあがったのは想定外だった。ツカサは引き下がり、俺はすべて説明してしまった。
「納得してもらえたか?」
「マロウド様は、ツカサ様を止められなかったのか?」
止めようと思えば止められただろう。俺の方が僅かに格が上のようだ。しかし、地上で神皇家の人間の中に入っているツカサと俺が全力で争うと、少なくとも器となっている人間は無事では済まない。ツカサに支配されている者たちも危ない。俺は皇宮の者たち全員に力を与えて支配から逃れさせることができるほどの力を持たない。




