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決戦(3)

 カバネの所に行くと、ヒサメも一緒にいた。親しそうに、お茶を飲みながら。俺は二人の間に座った。こういうところが子どもなんだろうな、俺は。


「どうしたんじゃ?癒しの神子。」


 俺は茶菓子を摘まんだ。口内で焼き菓子がほろほろと崩れる。おいしい。甘味を味わえただけでも、人間の身体に入った価値はあった。まあ、弱っていて無意識に入っただけなんだけど。


「俺、実はスメラギじゃねえんだ。」


 俺はもう一つ菓子を口に運ぶ。二人とも驚いた風でもない。


「どうした、コウ殿。そんな改まって。」

「コウ?あの日言うておった、サンノミヤコウか?」


 ああ、カバネには一度名乗っていたな。


「まあ、それも俺の名の一つではあるが、実は俺、『マロウド』なんだ。転化させる神、転人(マロウド)だ。十年前、リュウサキらが皇宮の者を殺して回っていたから、俺は助けようとしたんだ。一番霊力が高そうな当時の神皇、ミヤに神力を授けて、ツカサをミヤから引き剥がした。そうしたら、ミヤがミカドと俺を巻き添えに魂を入れ替えてしまったんだ。そして、異世界に飛ばされた。」


「魂を、入れ替えたじゃと?」


 二人とも、突拍子もない話を真剣に聞いてくれている。


「そういう神力を得たんだよ。問題は、俺が神力をほとんど使い果たしてしまったことだ。あの日の俺は、他の人間や妖怪にも力を与えた上に、様々な手順をすっ飛ばしてミヤを神子にした。致命的だったのは、俺の神体は神皇国にあるまま、異世界に飛ばされたことだ。存在を保てないくらい弱っていた俺は、数日異世界を彷徨ったのち、不幸にも亡くなってしまったばかりの子どもの死体に入った。」


 というより、俺は生き残ることを諦めて、残った力で異世界の人間の望みを叶えようとしていた。それが俺の存在意義だから。ところが、三宮皇は今にも消えそうな俺を見て、自分の身体を使っていいよと言ったのだ。パパとママを悲しませたくないから、三宮皇になって、と。俺はその望みを全力で叶えた。


 誤算だったのは、ちょっと俺の力が強すぎたこと。俺は三宮皇の今際の際の願いを叶えようと、記憶も力も含めて完全に三宮皇になり切ってしまった。優秀なのかポンコツなのか分からねえな。…いや、大ポンコツだな。


「それが、サンノミヤコウか。」

「そうだ。ようやく力を取り戻したから、改めてリュウサキに会いに行こうと思うんだ。ツカサと共に。カバネ、一緒に来るか?」


 カバネは自分に振られると思っていなかったのか、俺を二度見した。


「儂か?」


「リュウサキを父のように慕うカバネが一緒にいると、話がしやすいかと思ってな。リュウサキと俺たちは敵対しているから、まあ穏便には済まないだろうから。誰かしらは死ぬだろう。」


 リュウサキも神皇国で最高の神を二柱も相手に戦ったら無事では済まないことくらい分かるだろう。それでも、リュウサキとカザハナの怨みは根が深い。死んでもいいから俺たちに復讐したいと思っている可能性は大いにある。特に俺はあの二人を直接地獄に引きずり込んだ張本人だ。マロウドだと分かったら完全に敵に回るだろうな。


「分かった。儂も同行させてくれ。」

「それなら、私も!」


 ヒサメが身を乗り出した。鋭い眼光に気圧されて、俺は少し身を引いた。


「何で?」

「コウ…いや、マロウド様が心配だからだ。」


 ヒサメの気持ちはありがたいが、俺はヒサメに万一のことがあったらと思うと気が気じゃない。


「俺は曲がりなりにも神だ。大丈夫だよ。」

「しかし、かなり弱っていたのだろう?リュウサキはかなり強い。その取り巻きも多いぞ。」


 力を見せて安心させるか。俺は懐からツユハライを取り出した。


「目覚めよ、ツユハライ。」


 ツユハライは幼子の姿を取った。かわいい。ただ、手に亀裂が入っているのが痛々しい。八百年連れ添った仲だが、未だにかわいく思える。俺が短刀から付喪神にした欲目もあるのだろう。


「主様、お力が戻ったのですか!」

「ああ、気付いていたのに、よく何も言わなかったな。」


 ツユハライは俺がマロウドだと分かっていたはずだ。彼の力は主を守ることに特化している。彼の所有者がスメラギである以上、スメラギのことは、完璧に見分けられるはずだ。中に別人が入った状態など、瞬時に見抜ける。それなのに別人である俺のことも主様と呼ぶのは、俺が彼を付喪神にしたからだ。この八百年、ツユハライは律儀に俺を主様と呼び続けている。

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