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決戦(2)

 二人は吹雪の雪山に捨てられた。事故死に見せかけるために。俺はツカサが二人を殺そうとしていることを察知して、助けようとした。でも、俺にできることは、相手の望みに合わせて力を授けることのみ。結果的に彼らが妖怪になってしまったのは、分かってはいたが防げなかった。


 全てに裏切られ、凍え、絶望と怒りから、何もかも凍てつかせる力を願ったユキは、雪女になった。守るべき主君を守れず、自らの非力さを呪いながら、彼女を傷付けるものは、たとえ神であっても殺せるほどの圧倒的な力を願ったリュウサキは、鬼になった。鬼神と呼んでも良いだろう。彼には俺たちのことも殺せる力がある。


 ツカサが皇宮の者に命じて、あの二人を使役しようとした時、リュウサキは差し向けられた龍を素手で裂き殺した。捕らえられた後、ユキは改名して風花(カザハナ)と名付けられ、リュウサキは正名を流先(リュウサキ)と言ったが、字を変えて龍裂(リュウサキ)と名付けられた。改めて正名を握ったことで、ツカサは二人を完全に支配してきた。そう思っていたのだが、思ったよりリュウサキの持つ力が大きすぎて、三百年経って支配が弱まってしまったようだ。


「三百年も何もせんかったのに、何で今更余計なことするん?」

「それはこっちの台詞だ。リュウサキが俺のことを吹聴して回ったからと、どうして一族皆殺しにした?」


 ツカサは眉を吊り上げる。


「徹底的にやらな、また吾の元から逃げ出そうとするやんか。あれで制裁は仕舞いにするつもりやってん。」

「そう言ってどんどん必要な犠牲の境界線が狂ってくんだよ。もう止めよう、ツカサ。俺たちは地上に干渉しすぎた。俺は人間として十年暮らして、少しは人間の感覚を掴んだよ。神の過干渉は害悪だ。歪んだ正義感は悪意よりタチが悪い。」


 俺はできる限り穏やかに言った。ツカサは青筋を立てている。だが、ツカサもこんなところで神同士争うほどの馬鹿ではない。地上の者たちが大好きだから。


「もうええわ。力が戻ってよかったなあ。しばらく休んでてええから、吾の邪魔せんとってくれる?」


 ツカサは溜息交じりに言った。俺はツカサに明確な敵意を向けているが、ツカサの方は俺のことを上手く利用したいと思い続けている。俺は地上の者を気にかけている上にちょっと抜けているので、ツカサにいいように使われているのだ。神としての格は同等、いや、支配することが専門の神の支配を破れるんだから、俺の方が多少上なんだけどな。


 俺たちは強大な力を持っているだけで、精神力や思考力はその辺の子どもより酷いんじゃないかと思う。少なくとも俺はそうだ。


「お前だったら、ミライを死なせずにリュウサキを退ける方法はいくらでもあったはずだ。」

「うーん、あの子もちょっと手に負えんくなってきててん。と言ってもな、確実に始末したかったわけやないで?前も言うたけど、あの子自ら考えた作戦やし。」


 ツカサは悪いと思っていない口調だ。俺の怒りを察したのか、ツカサは補足した。


「でも、あの子、ええ働きしたで。あの鬼神に毒を飲ませたんやって。ま、あれが毒くらいでくたばるタマやないことくらい吾々にとって周知の事実やけど、それに重ねて追跡用の術も仕込んであったらしいわ。あれらは人を殺しすぎたやろ?始末しよや。な?」


 リュウサキらが人を殺しすぎたというのは同意見だ。元々は被害者だったことは認めるが、今やヒジリとスメラギを殺すまで止まるまい。…あの二人に罪はない。


「まあ、会いには行かないとな。二人で行こうか。」

「今度こそ兵を連れて行こか。」

「駄目だ。他の人を巻き込むな。俺とお前がいればいい。正直、足手まといだろう?」


 リュウサキには神をも殺す力がある。俺とツカサ以外では、太刀打ちできない。まあ、リュウサキも不覚を取ったことはある。カバネにそっくりなヒサメを見て動揺して腕を斬り落とされたり、事前から襲撃を察知して綿密な罠を張っていたミライに一杯食わされたりはしたが、油断しているはずがないこの状況では戦いにもならないはずだ。


「何言うてんねん!吾と汝に万一のことがあったら、この国はどうなるんや!」


 俺は鼻で笑った。


「自惚れすぎだって。地上の者たちがどうにかするさ。」

「吾が地上のモンらを操って、ただ好き勝手しとる思ってへん?今の皇宮を見てみい。妖怪も精霊も付喪神も手を取り合って暮らしとるやろ?これがどれだけ大変やったと思ってん。」

「知ってるけどさ、もう大丈夫だろ。基盤は築いたんだから。」


 ツカサは不満そうだ。正直、ツカサの努力は認める。何なら、俺が無秩序に弱者に力を与えたり妖怪化したりしたせいで、余計治安が悪化した。我ながら碌でもねえ神だ。収拾をつけてくれたのがツカサだから、断じて悪神ではないのだ。


「せめて、こないだの夜叉の男くらいは連れてこ。な?鬼神の知り合いやし、説得に役立つんやないの?」


 ツカサは頭を下げながら必死に訴えてくる。確かに、カバネがいた方が丸く収まるか。


「声を掛けてみる。お前が命令するなよ。」

「当たり前やん。」


 ツカサの目が泳ぐ。支配する気だったな。俺は溜息を吐いてから御所を後にした。

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