決戦(1)
【主な登場人物】
・三宮皇…本作の主人公。日本で暮らす男子高校生。十七歳。その正体はマロウド
・マロウド…神皇国にいる神。転化させる神。年齢不詳。
・スメラギ…コウから見たら異世界である、神皇国で暮らす少年。癒しの神子。十七歳。
・ツカサ…神皇国にいる神。支配する神。年齢不詳。
・ヒサメ…神皇国で暮らす女性。人間ではなく、夜叉という妖怪。二十四歳。
・カバネ…神皇国で暮らす男性。夜叉。二十四歳。
・イクサ…神皇国で暮らす男性。強化の神子。二十八歳。
・リュウサキ…神皇国で暮らす男性。鬼。三百歳。
・カザハナ…神皇国で暮らす女性。雪女。三百歳。
・コガラシ…神皇国で暮らす男性。大天狗。七十二歳。
「おはよう、スメラギ殿…。む?スメラギ殿ではないな?」
真っ白な髪に赤く鋭い目。ああ、また言葉を交わせるなんて…。
「久しぶり、ヒサメ。俺はコウだよ。覚えてる?」
「え、ど、どうして…コウ殿と話せているんだ?確か、縁切りの神様が私とコウ殿の縁を切ってから、互いに全く認識できなくなっていたはずでは?」
俺の方があの神より高位だからだろうか。そう言えば、ヒサメを夜叉にしたのも俺か。
「もう済んだんだ。詳しいことは、また後で。」
「久々に会えると嬉しいな。長いこと礼も言えていなかったが、カバネ殿を助けてくれてありがとう。」
「ああ。それは良いんだよ。」
そんなこともあったな。遠い昔のように感じる。俺はヒサメの顔をしみじみと眺めた。きれいだ。神でありながら妖怪を好いてしまってよいのだろうか。
「ヒサメはさ、もし夜叉から人間に戻れるとしたらどうする?」
「そんなことができるのか?」
「できるとしたら、戻りたい?」
人間にしようと思ったら、結構簡単に戻せる。リュウサキやカザハナも戻せるだろうか。三百年も経ってしまったが。少なくとも、ツユハライは無理だな。俺が彼を付喪神にしたのは七百年以上前だ。付喪神から魂のない物に戻りたがるなんて考えにくいからいいけど。
「ふむ…別に戻りたくはないな。夜叉になって、私は周囲の人々を守れる力を手に入れた。この力には感謝しかない。」
「そうか。」
良かった。怨まれることも覚悟していたが、少なくとも彼女は夜叉になったことを後悔してはいないようだ。打ち明けよう。俺の正体を。もはや隠しておく必要もない。
「コウ殿、何か様子がおかしいな。どうかしたのか?」
「ヒサメ、俺は実は…。」
部屋の外から声がした。
「スメラギ様、陛下がお呼びです。」
嫌なタイミングで…。ツカサか。
自分がマロウドだと自覚した今、ツカサとの戦力差も分かる。神としての格はそう変わらねえが、あいつは俺以外の全存在を操れると言っても過言ではない。操られないくらいの力を渡せたのは、リュウサキとカザハナを含め、せいぜい数十名。ヒサメやカバネ、神子たちとヒジリ、スメラギくらいなら力を高められそうだが…。ツカサと全面戦争になると、被害が甚大になるだろう。それは避けたい。
考えているうちに、御所に着いた。中に入ると、御簾は下がっていなかった。ヒジリだけが中にいる。
「力を隠してたんか?人が悪いなあ。」
「力がようやく戻ったんだよ。でも、非人道的な方法で人間を妖怪にすることは協力しないぞ。」
「この石頭!」
そういう問題じゃねえだろ。
「リュウサキの一件で学べよ。全てを支配することは、お前でも無理なんだ。」
力が戻って思い出したが、リュウサキとカザハナはかなり酷いやり方で妖怪にさせられた。
まずはカザハナ。彼女は元々神皇家の生まれで、高い霊力を持っていた。元の正名は幸という。神皇家の人間が妖怪になったことを伏せるため、カザハナと名を変えたようだが。ツカサも器として彼女に期待していたのだが、高すぎる霊力が災いして、ツカサと馴染まなかった。それだけなら良かったのだが、ツカサが全てを支配することに疑問を抱いたらしい。恐らく、神憑りを行おうとして失敗したことが影響しているのだろうが、カザハナはツカサが支配することができない人間となってしまった。
「それとも、これからも支配できない人間を口封じして回るのか?カザハナ、いや、ユキのように。」
「あれは滅多に起こらんやろ!しゃあなかったやんか。何百年引き摺んねん。」
ツカサに言わせると、カザハナ以来、三百年同じことは起きていないから、リュウサキ一味を殲滅すれば再び完全な支配を行える。だから協力しろと。
「そんな理由で殺される方はたまったもんじゃない。信じる者を不幸にするのは悪神だぞ。カザハナとリュウサキにした仕打ちを考えてみろよ。」
「悪神!よう言うわ。それで言えば汝の方が悪神やないか!あんなに長いこと二人を苦しめたんは、汝やろ!」
そうなんだよなあ。今や人間として死なせてやればよかったとも考えられる。これほど長く苦しませてしまうなら。
ユキは、ツカサに従うように命じられたが、断った。ユキが一番信頼できる近侍、リュウサキは、ユキの言葉を受けてその思想に共感した。共感してしまった。ユキの言葉で自分の支配が揺らぐ可能性を感じたツカサは、リュウサキとユキを始末することにした。
「俺は助けようとしただけだ!殺そうとしたのは、お前だ。」




