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神隠し(5)

 俺は立ち上がった。イクサの案内で、村の端に向かう。ヒサメが何もない空間をぺたぺた触っている。


「スメラギ殿、見てほしい。」


 ヒサメが空中に向かって刃を振るうと、その刀が宙で不自然に止まる。すぐさまヒサメは防御の姿勢を取った。


「見えぬのだが、此処に何かがある。私の攻撃が跳ね返ってくるのだ。」

「別の場所も試してみましょう。本当に村に閉じ込められているのか。」

「そうだね。」


 イクサとヒサメで調べて回ったが、この村はどこも見えない壁で覆われており、外に出ようとすると力が跳ね返される。


「思ったのですが…。」


 俺は恐る恐る切り出した。イクサとヒサメは俺の方を向く。


「これ、私たちが神隠しに遭っているのでしょうね。」

「つまり?」

「この村は現実ではなく、妖術で作られた場所で、私たちは妖怪の術中にはまっているということです。」


 そう考えればトラとその子どもたちが山から村へ瞬時に移動していたのも頷ける。リュウサキという脅威から命を救うために、何かしらの妖力が働いたのだ。


「どうすれば出られる?」


 ヒサメは険しい表情で刀を構えた。


「元凶を突き止めないとどうしようもないでしょうね。」

「どうやって探そうねえ。」

「付喪神と考えるなら、何かを閉じ込める物…箱とかでしょうか?」


 俺は呟いた。


「文箱、硯箱…そんな類かな?」

「大切にされて百年ほど経っている物を探せば、解決策も分かるかもしれぬな。」


 俺たちは村人に事情を説明して、持ち物を確認していった。年季の入った物もいくつかあったが、どれも付喪神ではない。


「おかしいねえ。誰か隠しているのかな。」


 俺はもう一度事件の情報を確かめようとスメラギの日記を取り出した。昨日のページを読もうとしたが、読めない。この世界の文字は漢字に似た『正字』とひらがなに似た『川字』、カタカナに似た『半字』からなる。俺は十年前にスメラギと入れ替わった時から、何故かこの世界の言葉を理解していた。読み書きもできる。それなのに、今朝は読めたはずの文字がまったく読めない。


「なあ、ヒサメ。この文字が読めるか?」


 俺は日記帳をヒサメに手渡す。ヒサメは首を傾げた。かわいい。


「何だこれは?左右逆に書いたのか?」

「え?」


 俺はヒサメの手の中の日記帳を覗き込んだ。確かに左右が逆になっているみたいだ。そうか。そういうことか。


「分かったぞ、ヒサメ。付喪神の正体が。」

「本当か?」

「ああ、その正体は鏡だ。鏡なら、鏡の中の世界に人々を閉じ込める力を持っていてもおかしくないし、日記が鏡文字になっていることも説明がつく。外に出ようとして力が跳ね返されたのも、鏡だから反射したのだろう。」


 ヒサメは頷いた。


「村中の鏡を調べるか。」

「そうしよう。一番怪しいのはトラだけどな。」


 ヒサメはバツが悪そうに頭を掻いた。トラがリュウサキの手先ではないことが理解できたのだろう。


「トラには俺から話をする。イクサとヒサメでその他の人の確認をしてくれ。」

「ああ。」


 俺はトラと二人きりになった。トラは不安そうに俺を見ている。


「鏡、持っていますよね?」


 トラの肩がビクッと跳ねる。


「それが神隠しの原因だと思います。見せてくれませんか?」


 トラは頭を横に振る。


「ば、バァ様の形見の手鏡なんです。ずっと、た、大切にしてきました。神隠しの原因だなんて、そんな…。」


 俺は苦笑いした。


「言葉足らずでしたね。貴方の鏡は、鬼から貴方を守ったのですよ。貴方が鬼に喰われないように鏡の中に閉じ込めた。村の人を閉じ込めた理由は分かりませんが、悪意はないのだと思います。でも、もう外に出る時です。鏡に感謝を伝えて、外に出してもらいましょう。ね?」

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