暴かれた秘密(5)
翌日、俺は退院することになった。父さんと母さんに連れられて、家に帰る。
「ただいま。」
「お帰り、兄貴。」
聖はそれだけ言って自分の部屋に戻った。ある意味、一番の被害者は聖だ。兄が重病を抱えているせいで、小さい頃から我慢させられてばかりだった。遠くに旅行に行けなかった。友達を家に呼べなかった。欲しいものを買ってもらえなかった。両親に甘えられなかった。
当然、彼女の怒りは俺に向けられた。感情を抑えられない幼少期には心無い言葉を吐かれたことも多かった。俺だって聖に怒鳴り散らした。少しずつ俺も聖も大人になっていったけど、幼少期に埋められなかった聖の寂しさを、俺には満たしてあげられない。
「ごめんな。」
無意識に言葉が口をついて出た。聖に聞こえてはいないだろう。俺はミカドの部屋に行く。
「近くに妖怪化した人間はいる?」
「いるが、しばらく休んだらどうだ?」
そんな悠長なことを言ってられねえ。俺の体調が悪化して再びスメラギと転魂しなければならなくなる前に動かねえと。
「教えてくれ。」
「分かった。この資料を見てくれ。実際に妖怪化している人間には印が付けられている。近所だとこの辺りかな。」
俺は父さんに渡された資料をパラパラと捲った。名簿の一覧と各自の状況、予測される危険性、対処法などが分かりやすくまとめられている。そりゃ寝不足になるわ。
「…明美さん?」
名簿のかなり初期に書かれている名前に見覚えがあった。『山本明美』、十四歳(当時)。現時点での住所不明。養父母の死亡時に力が発現した模様。言動から察するに、霊を感知する能力を有していると思われる。
明美さんの話とも合致する。彼女の能力は妖怪化したことによるものなのか。あの男子くらい見た目も妖怪染みていたら分かりやすかったのに。
「知り合いか?」
「うん。彼女だったら接触できると思う。連絡してみるよ。」
俺はもらった連絡先に電話を掛けてみる。
「もしもし、明美さん。ちょっとご相談したいことがあるのですが、ご都合のいい…。ああ、はい。分かりました。ありがとうございます。ええ。失礼します。」
一方的に日時と場所だけ伝えられて電話を切られた。相変わらずヒサメより横暴だ。平日の昼間だが、俺は病気を理由に学校を休めばいつでも動ける。
「どうだった?」
「明日の午後一時に駅前のファミレスで会うことになったよ。」
「それは良かった。ちょうど仕事も休みだ。」
おっと、ついてくる気か?保護者だから当然と言えばそれまでだが。
「あらかじめ言っておくけどさ、明美さんは結構…ヤバい人だから。何て言うか、凄い裏社会の気配を感じる人。そこは覚悟しておいて。」
「どうやってそんな人と知り合ったんだ?」
ミカドは怪訝そうに眉をひそめる。
「ヒサメって知ってるよな?彼女に瓜二つなんだ。驚いて俺から声を掛けた。」
「そうなのか。あのヒサメと。それはかなりの威圧感だろうな。よく声を掛けたものだ。ヒサメとは仲が良いのか?」
「…良かった。」
俺はぶっきらぼうに言った。ミカドは深入りしてはならない空気を感じ取ったらしい。
「そ、そうか。まあ、明日はよろしくな。」
「ああ、よろしく。」




