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誰が何者か(6)

 二人が黙ると、外の喧騒が浮き彫りになる。俺は相変わらず結界を叩き割ろうと密かに試み続けている。無駄と悟りつつ。


「で?マロウドはどこに消えたんだァ?」

「さあ?案外近くに潜んでいるかもしれませんよ。」


 リュウサキは立ち上がり、ミライの首を鷲掴みにした。リュウサキからすると力を入れていないのだろうが、ミライが必死に抵抗してもびくともしない。


「ツカサ、テメェはまだ、テメェがこの国の全てを支配することが『正しい』と思ってンのかァ?」


 リュウサキが凄む。ミライは不敵な笑みを浮かべた。


「そうだ。吾が支配から逃れた汝がこのような暴挙に出たことこそがその証左であろう。マロウドの偽善は結果的に多くの血を流す。あれこそ真なる悪だ。」


 これはミライの考えなのか?いや、ツカサを演じているだけなはず。だって、彼女はツカサに逆らって俺に情報を流しているのだろうから。


「そォかよ。テメェの傲慢は変わらねェんだなァ。」


 ぐちゃりと肉の潰れる音がした。ぴちゃぴちゃと血が滴る音がする。リュウサキの手が、ミライの腹を貫いている。貫通している腕が致命的な傷を止血していて、リュウサキの筋肉質な腕を真っ赤な血がゆっくりと這っている。ミライはまだ息があるが、内臓が受けたダメージは破壊知れない。俺はただ茫然とその光景を眺めていた。


「ミライ!」


 当然ながら、俺の叫びは届かない。リュウサキはミライの腹から腕を引き抜いた。ぼたぼたと大量の血が零れ、ミライはばたりと倒れる。リュウサキは大きく口を開けた。鋭い牙が光る。リュウサキの手はミライの腹に差し込まれ、ずるりと何かを引き出す。それはゆっくりとリュウサキの口に放り込まれ…。


「やめろ…。出してくれ!」


 リュウサキは口の周りを血塗れにしながら、それを咀嚼している。俺は眼前に広がる地獄から目を逸らしたくて、それでも何故か見つめ続けていた。身体は震えてしまって言うことを聞かず、すぐ傍で起きているはずの出来事が、映画か何かのように現実味がない光景と化していた。


 リュウサキが急に咀嚼をやめた。口を押さえ、横を向いて咳き込んだ。リュウサキの足元に血が飛び散る。リュウサキは膝を付き、胃の辺りを押さえながら吐血している。


「ゴホッ、カハッ…。テメェ、何をしやがったァ…。」


 リュウサキは口元の血を乱暴に拭う。俺を覆っている結界が揺らいだ。俺は結界を殴りつけたが、壊れはしない。


「毎日少しずつ…毒を飲み続け…た甲斐があっ…た。」

「まさか、オレが来ることを知っていやがったのかァ?」


 ミライは微かに頷いた。リュウサキは瀕死の未来を置き去りにして部屋から出て行った。リュウサキがいなくなった途端、俺の周りの結界が消滅した。

 俺はミライに駆け寄る。ミライは震える手を伸ばしてきた。その手を力強く握り返すと、ミライにスメラギの護符を呑ませようとした。ミライは首を横に振る。


「どうにか…助けられないか?」


 視界が滲んできた。今にもミライは目を閉じそうだ。


「他の未来を選ぶわけにはいかなかったのか?なあ、嘘だと言ってくれよ…。」


 ミライはフッと表情を緩めた。俺の腕の中で、その身体が急に重くなった。俺はその頬を軽く叩く。何の反応もない。


「起きて…。ねえ、目を開けてよ!」


 ミライは満足そうな笑みを浮かべている。俺はミライのこんな笑顔を見たことがなかった。穏やかで美しい顔。こんな表情もできたのか。無表情なイメージだった。俺はミライのことなんて何も知らなかったんだな。


 その後、リュウサキたちは命からがら撤退したそうだ。全体的に見れば皇宮側の大勝利だという。宮中の人々がミライを必死に治療したが、息を吹き返すことはなかった。


 俺はミライが渡してくれた文を読んだ。そこには一言、こう書かれていた。


『三宮深門、美夜に貴方たちの正体を知っていると告げて。』

【コウとスメラギの日記】

神皇国にある日記より一部抜粋

7月16日 コウ

ミライのこと、助けられなかった。目の前にいたのに。ごめん。

7月17日 スメラギ

コウのせいじゃないさ。むしろ、コウは大丈夫だった?

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