誰が何者か(1)
【主な登場人物】
・三宮皇…本作の主人公。日本で暮らす男子高校生。十七歳。
・スメラギ…コウから見たら異世界である、神皇国で暮らす少年。癒しの神子。十七歳。
・カバネ…神皇国で暮らす男性。夜叉。二十四歳。
・リュウサキ…神皇国で暮らす男性。鬼。三百歳。
・イクサ…神皇国で暮らす男性。強化の神子。二十八歳。
・ミライ…神皇国で暮らす少女。遠見の神子。十四歳。
・イネ…神皇国で暮らす女性。妖狐。百三十八歳。
・マロウド…神皇国にいる神。転化させる神。年齢不詳。
・ツカサ…神皇国にいる神。支配する神。年齢不詳。
日本の俺の身体はもう限界が近いのかもしれねえ。あれからずっと入院している。頭痛は和らぐ気配がなく、ざるに注がれた水が零れるかのように、生命力が俺の身体から滑り落ちていくのを実感する日々だった。当然、父さんの秘密を探る余裕なんてない。妖怪染みた化物になった男子は普通の人間に戻って無事だったらしい。話しをしてみたいところだが、この身体ではままならない。
早く入れ替わりを止める方法を見つけねえと、スメラギに申し訳ねえ。でも、三宮皇は動けない。神皇国で情報を集めるしかない。スメラギの日記を開いてみる。
「おお、こんなに書いてくれたのか。」
スメラギは皇宮の秘術を探ってくれたようだ。術の詳細は分からなかったようだが、噂話などをまとめてくれていた。
皇宮の術師の中には、妖を使役する者がいる。それは事実だ。しかし、リュウサキやカザハナのような高位の妖を使役できる者なんていないようだった。十年前の事件で都合よく高位の術師が死んだり重要な記録が燃えたりしたということで、詳細は不明だという。
ぜっっっっっっったいに嘘だ。十年前、リュウサキとその一派が皇宮でスメラギの両親を殺した日、彼らはまるで皇宮の内情を熟知しているかのようだったという。やはり、何かしらの関係はありそうだ。
俺が気になったのは、神子についてだ。どうやら、皇宮の守り神、マロウド様に祈った者のうち、適性のある者が神力を宿すそうだ。人間でありながら、神に近しい力を得ることができるというのは、この世界の基準でもかなり凄いことだという。祈った内容によって、授かる神力が変わる。スメラギは皇宮で育ち、悪い妖怪や人間によって傷付く人々を見て、彼らの傷を癒やしたいと願ったそうだ。良い子過ぎる。
「マロウド様、ね。」
マロウド様はかなり高位の神らしい。人間に加護を授けることができる神は何柱も存在するそうだが、その人間の望みに応じて永続的な神力を授けることができる神は希少みたいだ。まあ、全ての人間が簡単にスメラギのような力を手に入れたら、とんでもない世界になりそうだ。
「スメラギは『癒しの神子』だが、入れ替わった俺には癒しの力がねえ。ってことは、神力は魂に紐づいてんだよな。俺がマロウド様に祈れば神力を授かる可能性もあんのか?」
何となくだけど、俺には無理な気がする。この世界の住人じゃねえってこともあるが、適性がねえように思える。まあ、別に欲しい力もねえしな。
「スメラギ様、神皇陛下がお呼びです。」
え、怖。消される?迎えに来たのは骸骨だった。近衛兵の一人だったような、違うような…。骨格しか見えない連中の見分けなんかつかねえ。何にせよ、大人しく従うしかないか。
「今行きます。」
俺は骸骨について正殿に着いた。中に入ると、既にイクサとミライがいた。嫌な予感しかしねえ顔ぶれだ。御簾の向こうにいるのは、きっと神皇陛下だろう。
「リュウサキとその一味の居場所を突き止めました。」
想定外の展開だ。少なくとも今すぐ処刑されることはなさそうだ。
「どこですか?」
イクサが尋ねた。いつになく真剣な表情だ。
「近くです。貴方がた三人には、兵を率いてリュウサキ一味を討って頂きたい。生死は問いません。」
断れるはずもねえ。俺はイクサとミライの顔色を窺った。イクサはピリッとした雰囲気を感じさせる面構えだ。ミライは相変わらずの無表情で、何も読み取れない。
「出発はいつです?」
「今すぐ。」
嘘だろ。急すぎる。イクサとミライは動揺していない。ミライは目を開けているので、遠見の真っ最中だろうな。
「皇宮の守りが手薄になりはしませんか?」
俺はせめてもの抵抗をしてみた。明日以降に持ち越してもらえたら、スメラギが判断するだろう。俺は行きたくない。
「皆様が心配される必要はないそうです。」
取り付く島もねえ。俺はミライの顔を見つめた。俺が行くことで足を引っ張るならミライが止めるはずだ。ミライは俺の方を見もしない。…大丈夫、なんだよな?
「早速ですが、出発なさってください。」
もう駄目だこりゃ。俺は諦めた。イクサとミライが兵を率いるなら心配はいらねえだろう。強化の神子、イクサが能力を底上げして、遠見の神子、ミライが指示を出せば一般人でも妖怪に太刀打ちできる。スメラギの力がなくても問題ないはずだ。




