十二年越しの祟り(7)
「とぼけるでない。汝の仕業であろう。そこな女、汝もじゃ。産子を氷漬けにしておいて、舞い戻ってきたからには相応の覚悟ありと思うて構うまいな?」
「わたくしは…命令で…。いえ、確かにわたくしの罪ですわ。」
カザハナは消え入りそうな声で言った。彼女も当事者なのか?
「俺は十二年前の事件についてあまり知らないのです。教えて頂けませ…んか…。」
神の威圧感が強まった。俺は思わず言い淀んだ。
「赦さぬ。汝がいたづらになりぬれど、汝が咎まで消ゆる理やあらむ。」
古い神のようだ。『赦さない。お前が無為に死んだとして、お前の罪まで消える理屈があるはずだろうか、いや、そんなはずはない』ってとこだろうか。スメラギが神皇国の古語に詳しくて助かった。
「皇宮の連中が神や妖を使役しながら産子を襲いに来た。使役されておったからと、その咎がなかったものになるとはゆめ思わぬぞ。産子を殺め、その魂を歪めて別の存在に作り替えた咎、命をもって贖え。」
例の、人間を妖怪にする術とやらのことか。
「カザハナは皇宮に使役されていた妖だということですか?」
カザハナは微かに頷いた。もう意識も朦朧としているようだ。俺も少しずつ身体が熱くなってきた。祟られているのか。
「その虐殺に関しては、皇宮に非があることを認めます。俺が黒幕を探って糾弾しますので、ご協力願えませんか。命令で操られていた実行犯を祟っても、黒幕が健在では犠牲者も浮かばれないでしょう。」
俺は神に訴えた。身体が一段と熱くなったような気がする。
「逃げる気か?」
そりゃそうだ。逃げ口上にしか思えねえだろう。逃げ出したいが、足が動かない。二人ともさっきより足の変色が広がっている。カザハナは意識が混濁しているように見える。もう限界かもしれねえ。このままでは二人とも死ぬ。俺は懐から短刀を取り出した。
「目覚めよ、ツユハライ。」
ツユハライが人の形になった。神社をキッと睨みつけている。
「お守りします、主様。」
「ありがとう。カザハナを守ってもらうことはできますか?」
「えぇ!?」
ツユハライは甲高い声を出した。
「どうしてです?」
「カザハナの方が重症みたいで…。」
「そうではありません、主様。その女は敵にございます。」
ツユハライの言う通りだ。しかし、俺は彼女が悪なのか判断できねえ。むしろ、皇宮側が悪である可能性が高いとさえ思える。まずは彼女を死なせずに、話しをしてみたい。
「お願いし…。」
「嫌です!その女を助ければ、主様を殺そうとするかもしれません。捨て置きましょう。主様お一人でしたら、ツユが…。」
俺は赤紫になって動かなくなった足を触った。感覚がない。
「付喪神風情が、下がれ!」
産土神は言ったが、ツユハライに呪われた様子はない。怨みのない人物までは呪えないらしい。そこまで行ったら邪神だ。ツユハライは産土神に短刀を向けた。少し熱さが和らいだように感じる。
俺は足にスメラギの護符を当ててみた。赤紫色が薄れ、熱さもかなり和らいだ。神の祟りまで浄化できるのか。俺は一枚しかない護符をカザハナに呑ませた。カザハナはうっすらと目を開けた。
「大丈夫ですか?」
「あなた、癒しの神子でしたのね…。」
カザハナの声は消え入りそうだ。足は赤紫色が引いてきているが、まだ苦しそうだ。
「嘘を吐いてごめん。」
「ふふ、わたくしを助けた挙句謝るなんて、本当に変な御仁だわ。」
カザハナは弱々しく微笑む。こうして見ると、やはり悪人だとは思えない。
「結局、その女をお救いになるのですね…。」
「助けられるのに、見捨てるわけには…。」
「いいんです、主様。主様の器の大きさにツユが追い付けないだけですから。」
何か申し訳ねえ。ツユハライも大変だろうに。せめてお荷物にはなるまいと、俺は足の激痛を無視して無理に動かした。
「カザハナ、動けるか?」
カザハナは自分の足を撫でた。赤紫色だった足は真っ白に凍り付き、カザハナは階段に手を掛けながら立ち上がった。一瞬痛そうな表情を浮かべたが、すぐに毅然とした表情に戻った。
「逃がさぬと言うた!」
産土神が叫ぶと、空気が震えた。俺は意識が飛びそうになるのを堪えた。頭を振る。これはマズい。ツユハライは刀を顔の前に構えた。
「あああぁぁぁ!!」
ツユハライが呻いた。顔の一部が赤紫色になったが、すぐ元の色に戻った。守り刀の浄化力だ。気が付けば、俺の足の赤紫もツユハライが少しずつ吸って浄化してくれていた。しかし、相手は産土神で、しかもこちらが先に産子に手を出した。この地では分が悪い。
「眠れ、ツユハライ!」
「嫌です!」
ツユハライはいっそう苦しそうに呻いた。馬鹿、主の命令を拒むなんて!付喪神なのに。ツユハライの手に亀裂が見えた。このままじゃマズい。




