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十二年越しの祟り(5)

 カバネの一族が暮らしていた集落は、墓地と化していた。皇宮の者が弔ったのだと聞いてはいたが、今となっては証拠隠滅とも取れる。俺は周辺を捜索したが、何も情報は得られなかった。俺は墓地に手を合わせて、更に奥へと進んでいった。


「おっと、人がいたのか。」


 俺は森の奥に隠れた。五人の武装した連中が、一抱えはある麻袋を数個と高貴な身なりの女性を乗せた馬を牽き、森の獣道へと進んでいる。見るからに盗賊だ。俺は充分な距離を保って後をつけた。


 獣道の中に粗末な小屋があり、盗賊はその中へ入っていった。女性は無理やり小屋の中に連れて行かれた。馬は外の木に繋がれている。女性を助けたいところではあるが、俺では無理だ。


「俺の危機でもないのに叩き起こしていいのかな。」


 俺はツユハライを取り出して呟いた。今日既に人化しているので、できれば起こしたくない。この先危機がありそうだし。俺が護符を呑んで突っ込んでも、縛られたらどうしようもない。どうして一人で来たんだ、俺。


 奇襲するしかねえ。三対一くらいに持ち込めれば、案外動けるスメラギの身体がどうにかしてくれるはずだ。夜叉相手でも少しは動けたんだから。俺は慎重に馬に近付いた。


「静かに頼むぜ。」


 木の幹に結んである手綱を外す。馬に乗れたら逃げられる可能性が高い。見たところ一頭しかいないようだ。馬を小屋の裏に連れて行く。


 俺は手頃な大きさの石をいくつか持ち、小屋の屋根に上った。石を一つ小屋の扉に投げつける。少しして、小屋の扉が開き、男が出てきた。俺はその頭上に飛び降りて、脳天に踵落としを食らわせた。男はどさりと地面に倒れ伏した。まずは一人。


「どうした!?」


 物音を聞きつけて飛び出してきた男の顎に肘鉄を食らわせる。男はふらふらと膝を付く。二人目。


 俺は小屋の横に回り込み、屋根をよじ登る。男たちが小屋から出てきて、辺りを探し始めた。三人。一人は倒れた二人を介抱している。これで全員だ。俺は男たちが十分離れたことを確認すると、小屋の裏にそっと降りた。裏口を少し開け、中を窺う。女性は縛られた状態で、小屋の端で震えている。俺は中に入ると、女性に近付いた。


「ここから逃げましょう。」

「え?」


 近くで見ると、女性は非常に美しかった。銀色の長い髪に大きな銀色の目。どことなく儚さを感じさせる美女だ。二十歳前後に見える。


「詳しいことは後で。さあ。」


 俺は女性の縄目を短刀で切り、小屋を出ようとした。すると、裏口には見覚えのない筋骨隆々な男が立ち塞がっていた。


「尾行された上にこんなガキに出し抜かれやがって。馬鹿どもが…。」


 そうか。小屋に入ってきた五人は下っ端で、こいつが親玉か。元々小屋の中にいたに違いない。とことん俺は間抜けだ。でも、こいつは俺を完全に舐めている。

 俺は男に向かって行った。俺の放った拳は易々と止められ、腕を締め上げられた。激痛が走る。身体が動かせそうにない。


「逃げて…!」


 俺は女性に向かって叫んだ。女性は数歩後ずさる。男が俺の手に小刀を押し当てた。


「動いたらこいつの指を斬り落とすぞ。」


 女性はぴたりと止まった。駄目だ。


「いいから行って!」


 俺は叫んだ。スメラギなら自分の身体が多少欠損していても治せる。まずはこの女性を逃がすことが先決だ。俺はにっこりと笑ってみせた。


「大丈夫。走って。」


 女性が驚いたように目を見開いた。


「いいからこっちに来い。痛い目に遭いたくなきゃな。」


 女性はゆっくりと男に近付いていった。駄目か。女性は男にどんどん近付き、目の前まで迫り、その顔に手を伸ばしたかと思うと、その人相の悪いひげ面にキスをした。


 は?


 何が起こったのか分からず、俺が混乱していると、女性は俺の腕を掴んだ。そのまま手を引かれ、裏口から外に出る。振り向くと、男は虚ろな表情で突っ立っていた。心なしか、顔色が悪い。何で追ってこない?俺の思考は馬を見たところで少し冷静さを取り戻した。


「乗ろう。」


 俺は馬を牽いて、女性に手を差し伸べた。女性は首を横に振る。時間がねえ。俺は半ば強引に女性を馬に乗らせた。俺も後ろに跨り、馬を走らせた。やはりスメラギの身体は乗馬方法を覚えていた。ひとまず盗賊はまいただろう。


「大丈夫だった?」


 俺は女性を馬から降ろした。女性の手に触れてしまった。冷たい。氷のようだ。俺は思わず手を引っ込めた。女性を見ると、微かな笑みを浮かべている。

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