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文化祭(7)

「貴殿の目的は何だ?」

「入れ替わりの原因を突き止め、できれば止めること。」

「まあ、貴殿の話が本当なら不気味だからな、止めたいのは当然だろう。面白い。私も気になった。協力してやってもいい。」


 凄い手の平返しだ。怪しいが、下手にごねて家族も巻き込んで死ぬのは避けたい。


「見返りに何を求めるのですか?」

「三宮深門の情報が欲しい。彼の情報網について、息子である貴殿から探ってくれ。」


 安請け合いしていいのか分からない。父さんに危害が及びかねないし、明美さんが俺の知りたい情報をくれるとも思えない。


「明美さんは何をしてくれるのですか?」

「さあ。取り敢えず、今日の所は五体満足で帰してやるよ。」


 悪戯っぽく笑いながら言われると、冗談なのか本気なのか判断が難しい。


「生憎と、父親を売るほど落ちぶれちゃいないんでね。」


 スメラギの作ってくれた護符は呑んである。こっちの世界でもスメラギの神力は健在だから、上手くいけば死にはしないだろう。何ならこっちの身体は死んでもいいし。

 明美さんは俺の後ろの虚空を見つめている。怖い。


「そんな顔をせずとも、私だって眠れる獅子を起こすほどの馬鹿じゃない。三宮深門のことは諦めよう。それより、私は貴殿に興味がある。連絡先を教えろ。何か用があれば連絡する。」

「え、あ、はい。」


 俺はスマホの番号を教えた。明美さんはそれを受け取ると、立ち上がった。


 支払いは明美さんが済ませてくれた。俺は自分の分を払うと言ったが聞き入れてもらえなかった。結果的に初対面の女性に声を掛けて、長々と気味の悪い妄想を聞かせた挙句奢ってもらって連絡先まで伝えたヤベー奴だ。


「そう言えば、頭に何か違和感はないか?」

「え、どういう意味ですか?」

「…重いとか痛いとか何かないか?」


 あれ、俺、明美さんに持病の話ってしたか?無意識のうちに、頭が痛そうな素振りを見せてしまっていたのだろうか。


「病気で時々頭痛がします。」

「医者は何と?」

「治療できないそうで、延々と様子見ですね。」


 明美さんは口を開けて閉じた。何か言いたそうだが、言葉を選んでいるようだ。


「病気になってから、お祓いってしたことあるか?」

「似たようなことなら。少しは楽になりますね。」


 スメラギの治療は邪気祓いと言って差し支えない。明美さんの顔色が曇る。


「楽になるのに治らぬとなると、インチキですらないのか。これはよほどの…。」


 明美さんの手がスメラギのお守りに伸びた。まじまじと見ている。


「あの、どうかしましたか?」

「いや、お大事にな。」


 明美さんは俺の額を人差し指で軽く押した。彼女も大概変わった人だな。


「はあ。本日はどうもありがとうございました。」

「また明日。」

「はい。さようなら。うん?」


 聞き間違いかと思ったが、呼び止めるほどでもないので立ち去る明美さんを見送った。明日って、まさか文化祭に来る気か?


「取り敢えず、父さんと話をしないといけねえな。」


 俺は家に帰り、父さんの部屋に入った。父さんの部屋には無数の本や書類がある。中にはオカルト本の類もある。父さんは相変わらず顔色が悪い。


「どうした、皇?真剣な顔をして。」

「この辺りで起きてる事件のこと調べてるみたいだね。」

「急だな。そうだよ。」


 父さんは顔色一つ変えずに言った。もっと動揺するかと思った。


「どうして?」

「家族の安全のためだ。」


 かえって危険に巻き込まれそうなものだけど。


「どうやって調べたの?」

「そこは気にしなくていい。」

「気になるよ。事件前に予想できていたみたいだった。」


 父さんは目を合わせようとしない。


「事件に関する情報を共有してくれるつもりもないの?」

「ない。お前を危険な目に遭わせたくないんだ。理解してくれ。」


 納得できねえ。危険を避けるためにも情報は必要だろうに。


「事件の予想が付いていたんでしょ。そのこと、警察には?」


 父さんは重々しく首を横に振った。


「どうして?事件を防げたかもしれないのに。」

「防ごうとはしたんだ。ただ、他の人に理解してもらえそうにないから、自力でどうにかするしかなかった。」


 父さんの手が少し震えている。


「俺の話を理解してくれた父さんが、それを言うの?」

「…皇が理解してくれないとは思わない。ただ、これ以上巻き込みたくないんだ。」

「これ以上?」


 父さんは頭を抱えている。


「駄目だ。話せない。すまないが、もう何も訊かないでくれ。」


 父さんがいないときに部屋を漁った方がいいな。


「そうだ、明日は土曜だから学校には行かないよな?」

「明日は文化祭だから学校だよ。」


 父さんの顔色が変わった。明日、学校で何かがあるとでも?


「休めないか?」

「何があるの?」

「いや、何もないと思うんだが…。」


 俺はグッと身を乗り出した。父さんは目を逸らす。


「俺、普通に学校に行くからね。」

「…ああ。あまり他人と…いや、何でもない。楽しんできなさい。」


 絶対何かあるヤツじゃねーか!何か起こりそうなら、一人だけ安全圏にいるのは気が引ける。


「じゃあ、お休み。」

「お休みなさい。」


 俺は部屋に戻り、日記を書いてから眠りに就いた。昨日向こうに行ったばかりだから、数日はこちらで過ごせるはずだ。

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