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文化祭(6)

「いや、貴方は俺のことを調べたんですよね?俺が貴方と無関係な人間で、貴方のことを調べる動機も伝手もないことは調べがついているんでしょう?」

「貴殿の父親は、様々な事件に首を突っ込んでいるようだが?」

「…え?」


 初耳だ。俺は思わず固まった。女性の方が怪訝そうに俺の反応を見ている。


「父親の使いではないのか。」

「今回の件に家族は無関係です。それより、父さんに裏の顔があったってことですか?」

「このタイミングでよくその質問ができるな。自分の立場を考えろ。」


 それはそうなんだけど、あの父さんに俺の知らない一面があったという方が気になる。待てよ、まさか父さんも俺の入れ替わりについて調べていたのか?


「すみません。これだけは知りたいんですけど、父さんは何か悪事を働きましたか?」


「さあな。だが、行動は怪しい。人が突然凶暴になる事件の現場に足を運んだり、聞き込みをしたりしていた。それだけなら野次馬で済むのだが、事件が生じる前に接触した人がしばらくしたらおかしくなったり、捕まる前の犯人に警察より早く会ったりしていたぞ。」


 俺は頭が真っ白になった。父さんは警察でも何でもない、ただの医者のはずだ。その行動は俺のためとも考えにくい。まるで一連の事件の黒幕みたいじゃねえか。


「しかも、それはここ最近のことではない。約十年前から断続的にだ。」


 十年前なら、やはり俺絡みなのだろうか。女性は自分の右隣の虚空を指さした。


「視えるか?」

「何が、ですか?」


 女性は溜息を吐いた。何だ?


「そのお守り、どうやって手に入れた?」


 女性は俺の鞄についているスメラギからもらったお守りを指さした。


「向こうの世界の俺が作ってくれたものですが…。」

「そう返されると一番困るな。」


 理不尽だ。どんな返答を期待していたのか知らないが、俺は正直に答えたのに。


「もうよい。話しを戻そう。どうやって私の情報を知ったんだ?」


 何か分からないが、俺は千載一遇のチャンスを逃したらしい。


「貴方の情報は知りませんよ。それこそ、名前すら知りません。俺が知っているのは、あくまでヒサメの情報なんです。息子目線の意見としては、父さんは慢性的に頭のおかしい息子のために、突然おかしな行動をする人間について調べているんだと思いますよ。どうして犯人の予想まで付くのか分かりませんけど。」


 俺は父さんの身が心配になってきた。この女性に殺されるのではなかろうか。


「ヒサメねえ。私の名前と一文字も被っていないぞ。氷雨って雹や霰のことか?それとも冷たい雨だったか?」

「あ、いえ。彼女は緋色の雨と書いて緋雨(ヒサメ)と読むらしいです。」


 由来は彼女の剣速で相手の血飛沫が舞う様が、真っ赤な五月雨の如く見えるからだそうだ。うん、異世界は名前の由来からして違うぜ。

 俺の言葉に、女性は立ち上がった。表情が打って変わって真剣そのものだ。


「どうやってそれを…?いや、それは知りようがないはずだ。まさか、貴殿は本当に?」


 俺が困惑していると、女性はハッとしたように席に座った。もう足を組んでいない。


「私の名前は明美(あけみ)という。明るく美しいと書いて明美だ。この名前は私の父が考え、母が字を決めたそうだ。」


 今の彼女から明るく美しい様子が窺い知れないが、それはこの際置いておこう。


「確かにヒサメと全く関係がないですね。」


「父は最初、母親にプロポーズした時の夕焼けの海が忘れられず、朱色の海と書いて、朱海(あけみ)と名付けたかったそうだ。私の母に、その字は血の海みたいで嫌だと言われて字を変えたと聞いた。父は寡黙な人だったので、両親が死んだ今、私以外にそのことを知る者はないはずなんだ。」


 朱色の海。それはどことなく緋色の雨とつながりを感じさせる。


「俄然私は貴殿の話に興味が湧いてきた。えーっと、向こうの私、ヒサメと貴殿の関係は何だったかな?主従関係か?」

「はい。向こうの俺、スメラギの家でガードマンをしているのがヒサメです。」


 俺は面食らいながらも素直に答えた。女性は俺の顎に手を掛け、顔を覗き込んだ。


「恋人ではない?」

「残念ながら。」


 それどころか、今後は互いに存在を認識できねえんだよな。


「そうか。貴殿は完全に私のタイプだがな。」


 一瞬、俺は何を言われたのか分からなかった。理解した途端、顔が沸騰するのを感じた。恥ずかしい。にやけてしまう口元を隠し、明美さんから目を逸らす。

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