文化祭(3)
俺は校門の前に立って下校する人々を見送った。部外者がいて通報されないかと心配になったが、俺と同じく迎えに来たのだと思われる大人が何人かいる。最近治安が悪いからだろうか。逆に不審者がいても気付かない気もするが。
「お待たせ、兄貴。」
俺は声のした方を見た。聖が友達と思しき女子二人と共に近付いてきていた。
「お疲れ。荷物持とっか?」
「むしろ、あたしが兄貴の荷物持った方がよくない?」
聖に鞄を取られてしまった。兄の威厳など欠片もない。俺の方が聖より体力がないのだから素直に感謝するべきだろうが、バツが悪い。聖の友達は目を輝かせて俺を見ている。
「えぇ、聖のお兄さんですか?あの?」
どの?と訊けるほどのコミュ力はなかった。聖から何と聞かされていたのだろう。変なことを言っていないといいのだが。
「妹がお世話になっています。」
俺は簡潔に挨拶すると、家に向かって歩き出そうとした。
「この二人は女テニの友達。優紀と紗綾。これ、兄貴の皇。」
聖が互いを紹介する。俺は頭を下げた。向こうも頭を下げる。
「初めまして、皇先輩。いつも聖にお世話になってます。」
「ほんとにね。」
「ちょっと、黙ってて。皇先輩はどこ高校ですか?」
あまり長話したくねえんだけど。妹の友達を無下にもできまいと聖を見る。こちらを見もせずに爪を眺めている。人見知りの兄を助けようという気持ちはないらしい。
「一高。」
「ヤバ、めっちゃ頭いいとこじゃないですか。すごーい!」
どう返せばいいか分からず、俺は曖昧に微笑んだ。そんなことないと言ったら嫌味ったらしいし、ありがとうは意味不明、話題を変えるほどの話術はない。う、沈黙が気まずい。
「土日に文化祭があるんだよね。」
おお、いい助け舟だ、聖。
「へえ、先輩は何するんですか?」
「うちのクラスはお化け屋敷をするんだ。俺は全然手伝ってないけど。良かったら来て、じゃあ。」
「またねー、二人とも。」
聖が二人に手を振ったことで、その場はお開きとなった。
「兄貴は人見知りだなー。」
「あれでも頑張ったんだよ。何か言われたらフォローしといて。」
「めんど。」
「おい…って思ったけど、別に何て思われても関係ねえか。」
女運が皆無の俺にとっては、初対面で嫌われるなら面倒が少なくて済むとさえ思える。何でこんなに壊滅的な性格なのに、しょっちゅう盗撮されたり執着されたりするのだろう。やはり何か呪われているとしか思えない。
「兄貴、高校で友達いる?」
「カズ以外に?いねえけど?」
「だと思った。ま、あたしが心配することでもないか。」
聖は肩をすくめてみせた。絶妙に腹の立つ言い方だが、俺が友達を作りたがらない理由を、聖は察している。病気のせいで迷惑を掛けたくないから、他人と距離を置いているのだと。
家の近くは人通りが少ない。街灯もないから、薄暗い。向こうから誰かがやってくる。百七十五cmほどの身長だが、髪が長い。細身の女性のようだ。その気配がシルエットが、見覚えがあって、懐かしくて、そんなわけないと思いながらも、足が自然とその人の方に進んでしまった。
「兄貴?」
「あの、すみません!」
俺が声を掛けると、その人は振り向いた。髪も目も記憶にある色と異なってはいたが、キリっとした目元、スッと通った鼻筋、何よりその雰囲気が彼女としか思えなかった。
「ヒサメ…?」




