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神隠し(2)

 俺たちは家の外に出た。部屋が暗すぎたためか、朝日の眩しさに目が眩む。しばらく進むと、村人たちが頭を下げてきた。ああ、居心地が悪い。近くにいた村人が恭しく話しかけてくる。


「おはようございます、神子様方。昨晩はよく眠れましたか?」


 神隠しが起こっているとは思えないくらい明るい声色だ。イクサがすぐさま返事をした。


「おはよう。お陰様でぐっすり眠れたよ。村長はお目覚めかな?」

「はい。呼んできますね。」

「ああ、いいよ。ボクたちが会いに行くから。ありがとうね。」


 俺たちは村長の館に入った。初老くらいの村長が出迎えてくれた。俺たちに対してかなり緊張しているようで、微かに手が震えている。俺は出されたお茶を啜りながら、誰かが話を切り出すのを待った。


「このような田舎まで高貴なお方が訪れてくださるとは畏れ多いことです。大したおもてなしもできず、相すみませぬ。」


 村長は丁重に頭を下げた。


「頭を上げてよ。この村は毎年神事に使うお神酒を作るための良質な米を作ってくれるよね。神皇家は何としても今回の件を解決したいと思っているさ。」


 イクサは朗らかに言った。村長は顔を綻ばせた。


「ありがとうございます。」

「さて、本題に移りたいんだけど…。」


 イクサは身を乗り出した。大男が身を乗り出すと、それだけで威圧感がある。村長は息を呑んだ。


「神隠しについて、知っている限りの情報を言ってくれないかな。」


 村長は深呼吸した。


「事の発端は三月前になります。」


 原因は不明。ある日を境に人がどんどんいなくなり始めたらしい。現在、犠牲者は村の半数に上るそうだ。それは神子が出向くべき大問題だ。


「どう思う?」


 考え込んでいた俺はイクサの言葉に顔を上げた。


「いくつか質問しても?」

「はい。」


「神隠しが起きる条件を突き止めましょう。まずは被害者の共通点を見極めますか。何歳くらいとか、どこで行方不明になったとか、直前に誰かに会っていた、何かを食べていたなど、特徴はありませんか?」


 村長は驚いたような表情を浮かべた後、しばらく考え込んだ。


「皆、三十過ぎの者ばかりでございます。働き盛りの男女ですな。そして、神隠しに遭ったのは恐らく室内と思われます。直前に誰かに会ったり何かを食べたりしたかどうかは把握しておりませぬ。親しい者に訊けば分かるやもしれませぬが。」


 俺は懐から紙を取り出して情報を書きつけた。


「被害者が特定の人間と揉めていたなんていうことは…?」

「正直に申し上げますと、素行の悪い者から順にいなくなりました。嘘を吐いて金を騙し取る女、喧嘩っ早い男、人の悪い噂ばかり広める女などです。こんなことを言っては何ですが、神隠しのおかげで村が平和になったと言う者までおります。」


 動機は怨恨っぽいな。妖怪ではなく、人間の仕業か?俺は筆を走らせると、紙をもう一枚取り出した。


「では、行方不明になった日付と時間帯、被害者の特徴を順に述べてください。」


 俺は聞いた情報をまとめていった。頻度は五日に一度くらい。時間帯は朝方が多く、被害者は一人で室内にいる時にそのまま行方不明になる。


「では、神隠しが起こる前に変わったことはありませんでしたか?例えば、新しい村人が来たとか、何か物を壊したとか。」

「これは関係がある話か分からないのですが…。」


 どうやら、とある家の父親が賭博で負けて多額の借金を背負ったらしい。父親は一家をおいて夜逃げした。母親は子どもを連れて父親を追い駆けるために山に入った。後日、父親が山中にて無残な姿で見つかったらしい。体中傷だらけで、喰われた痕もあった。辛うじて判別できるくらいの損傷具合だったという。


「しかし、この山でそこまで獰猛な獣を見たことがないのです。神隠しが起きたのは父親の死体が見つかってすぐのことです。何か関係があるのではないかと思いまして。」


 人を喰う存在として、真っ先に思い付くのは鬼だ。比喩表現ではなく、本物の妖怪の鬼。この世界には鬼が存在している。しかし、奴らは物理的に人を襲うイメージだ。神隠しに遭わせる鬼など聞いたことがない。


「母子は見つかったのか?」


 ヒサメが口を挟んだ。村長は動きを止めた。目が虚ろだ。


「この村で元気に暮らしていますよ。」

「それは僥倖だ。」


 戻ってきたということか。無事で良かったが、父親に会えたわけでもないのに、借金取りが来るかもしれない村にどうして戻った?


「その女性を呼ぶことはできますか?」

「すぐ呼びに行かせます。」


 村長は若者に何やら指示を出した。

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