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ヤマアラシのジレンマ(2)

 ひとまずは任務を遂行せねば。私は武者幽霊が出るという場所に向かった。人通りのない荒野には少し風が吹いている。幽霊なら幽霊らしく夜中になるとふらっと現れれば可愛げもあるのだが、奴は昼夜を問わず留まっておるそうだ。


「この辺りに強者を斬る武者幽霊が出ると聞いて参った。我が名はヒサメ。戦いを好む夜叉である。ぜひ手合わせ願いたい。」


 葉桜がザッと揺れた。がちゃがちゃと金属音が響いたかと思うと、真っ黒な全身甲冑が出現した。手には薙刀が握られている。一分の隙も無い構え。相当な手練れだ。私も刀を構える。


「一つ問いたい。何故、強者を斬り殺す?」


 私は気まぐれで問うてみた。武者幽霊は無言で斬りかかってきた。私は相手の薙刀を刀で払い、反対に斬りかかった。薙刀を短く持ち替えて打ち払おうとする武者幽霊に対抗すべく、受け流して間合いを取る。


「ふむ。やはり、武人同士が対峙して語らうは無粋か。よかろう。武にて語らおうぞ。」


 薙刀と太刀では薙刀の方が間合いが長い。その上、全身に甲冑を着込んでいるので、隙間しか刃が通らない。まあ、だからどうしたという話ではある。


 薙刀の攻撃は受け流し、甲冑の隙間を狙って斬りつける。重い甲冑のせいで、相手の動きの何と緩慢なことよ。彼の者が一振りする間に、私は優に五回は刀を振れる。


 桃の花弁が一片風で舞い落ちる。薙刀の突きを躱し、兜と首の隙間に一閃。薙刀が払いに転じたところを受け流して籠手の内側を斬り上げ、兜の目を突き通そうとしたが、後ろに躱される。瞬時に屈みこみ、相手の体勢の崩れたところで足元を薙ぎ払う。桃の花弁を真っ二つにしつつ脛を斬れた。


 肉を斬る感触はある。血飛沫は舞わない。幽霊だからだろう。いくら斬っても弱りもしないのか?かなりの斬撃を重ねた覚えがあるが…。


 斬って、斬って、斬って、斬って、斬って…。視界が赤く染まる。嗚呼、もっと斬りたい。脚を貫く。まだ向かってくる。左腕を落とす。薙刀を右腕で構えている。首を斬り離す。…動かない。あれ?嫌だ。まだ斬り足りない。動け。斬らせろ。首の方が動いている。どうでもいい。武器を動かせ。右腕は残しておいたぞ。這ってでも向かってこい。私は兜を割った。思ったよりずっと若い。十代か?口元が動き、微かな声が聞こえてきた。


「我が君のもと…には、一兵たりとも通さ…ぬ。」


 あ…。


 視界が元に戻った。私は深く息を吐いた。


「案ずるな。私はそなたの主に仇なす者ではないぞ。」

「援軍か?」

「…ああ。よく耐えてくれた。後は私に任せるがよい。」


 武者幽霊はフッと表情を緩め、風に溶けて消えた。この者は一体、誰から誰を守っているつもりだったのだろう。罪のない者を斬り殺し続けながら。


「楽しかったぞ、侍よ。」


 まだ市が終わってはおるまい。都に戻ろう。

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