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盗人タヌキ(3)

「ここが狐狗狸町か。」


 むせ返るような重く、甘ったるい薫りが立ち込めている。不自然なほど暑くて頭がボーッとする。辺りは着飾った狐狸が歩き回っている。もふもふしたい。可愛すぎる。


「参ったな。見分けがつかねえ。」


 豆狸を探せば良いと思っていたが、見渡す限りタヌキばかりだ。聞き込みから始めるか。俺は屈んで近くにいたタヌキに声を掛けてみる。


「あの、すみません。お話ししても良いですか?」

「もちろんだポン。その体勢辛いポンね?ちょっと待つポン。」


 何だこのコテコテのキャラ付けは。不覚にも可愛いと思ってしまう自分が恨めしい。タヌキは葉っぱを頭に乗せ、くるりと一回転する。すると茶色い丸みのあるショートボブに大きな茶色の目が特徴的な、百四十cmくらいの女の子が現れた。タヌキの耳と尻尾が生えている。


「何でも訊いてほしいポン!」


 タヌキは自信ありげに自分の胸を叩く。


「コノハという豆狸を探しているのですが、ご存知ありません?一昨日まで宮仕えしていた者です。」

「コノハ?知ってるポン!」

「本当に?」


 タヌキは耳をひょこひょこさせている。ひそひそと囁く。


「あの子、宮中で何かやらかしたみたいで慌てていたポン。急がないと逃げられるポン。」


 俺とヒサメは顔を見合わせた。コノハで間違いなさそうだ。


「ついてくるポン!」


 タヌキはてくてくと道を進んでいき、裏路地に入りこんでいった。俺たちもその後を追う。どんどん暗くて人通りのない道に迷いこんでいく。一軒のボロ家の前で立ち止まった。タヌキはくるっと振り返る。


「コノハは今、知らない人に会いたくないみたいだポン。コノハの知り合いなら、お名前とか伝えて取り次ぐポン。」

「スメラギが掛け軸の件で会いに来たと伝えてくれますか?」

「分かったポン。行ってくるポン。」


 タヌキは中に入っていった。五分くらい経って、タヌキが一人で出てきた。尻尾が垂れている。


「どうだった?」

「ごめんだポン。コノハは貴方がスメラギだということを疑ってるポン。何か本人だと証明できるものはないポンか?」


 ヒサメは露骨に嫌そうな顔をする。


「押し入ろう、スメラギ殿。」

「いや、まずは穏便に対話を試みたい。コノハが掛け軸の場所を隠したら面倒だ。」


 俺は神皇家の印が入った短刀を取り出すと、タヌキに預けた。


「説得するから、しばらくお待ちくださいだポン。」


 俺とヒサメは暫く待っていた。誰も出てこない。


「遅いな。」


 いくら何でも遅すぎる。まさか…。俺はボロ家の扉を開き、中に入ろうとした。その途端、強い力で腕を掴まれた。ヒサメが険しい表情で家の中を見ている。


「どうした?」

「この臭い、肥溜めか?」


 言われてみれば悪臭がする。瞬きをすると、ボロ家が奇妙に歪む。気が付くと、そこには家など跡形もなく、ただ肥溜めがあるばかりだった。


 クソ、やられた。コールドリーディングだ。まんまと引っ掛かっちまった。一昨日まで宮仕えをしていたはずの豆狸を武装した夜叉が捜しているのだから、その豆狸は何かやらかしたに決まってるじゃねえか。騙されやすすぎるだろ、俺。


「騙された!短刀を盗まれたんだ。」

「何!?」


 スメラギに申し訳ねえ。あと、彼にも悪いことしたな…。


「コウ殿、冬に備えて毛皮の帽子をあつらえて進ぜよう。」

「ストップ、ヒサメ。大丈夫だからさ!」


 ヒサメの目は完全に据わっている。本気で殺る気だ。このままだとあのタヌキは敷皮になる。俺は目を瞑り、低い声で呟く。

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