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ディバイン・インキュベーター1946~東京天魔揺籃記~  作者: 月見里清流
第四章 呪われた力の行く末
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13-3 future(サリエルの悩み)――立川

挿絵(By みてみん)



『――ウラベ。君は怪異とはなんだと思っている?』

 雑駁な問いに対する答えは常ならず、漠然とした答えになる。禅問答であれば話は別だが、僅かな懊悩と共に答えが脳裏に浮かんだ。

『敵、或いは人を惑わす存在です』

 ふと――グレムリンの歪んだ笑顔が瞼に浮かんだ。博士はまるで私の意中を見抜いたかのように、僅かに口元を和らげた。

「『我々は怪異という言葉を聞くと簡単に天使や悪魔、幽霊、人に害をなす存在を思い浮かべてしまうが……そうではない。「セーフ」の分類がある通り、怪異はあくまで単独の不可思議現象に過ぎないのだ。その不可思議現象を――人間が勝手に天使や悪魔と()()()()()()()()()し、人と人外、()()()()()()()()()()()()()()()を指す』」

『それは――』

 博士の言が脳内で蹴躓(つまず)いた。

 思い込むことで発生する?

 双方で束縛され続けている状態?

 今まで戦ってきた怪異達の記憶が目眩く脳裏を駆け巡る。

 牙、影、炎、元素魔法。

 そのいずれとも(ごう)も合致しない言葉を咀嚼できない。スティグラー博士は私が理解する時間を考慮に入れてか、一呼吸置いてから説明を続けた。

『そもそも――、だ。()()()()()()()()()。天を割るほどの雷や、天を染めるオーロラも、船を飲み込む大波も、声が木霊する山々も、ほとんどのことは現代科学で説明出来る。しかし太古の時代より人間は現実を理解するために、……そうだな、言うなれば当時最先端の知見を以て、理解出来ないことを理解しようとした』

 その為に、不思議な現象に名前を付けた。

『神を作り神話を作り、物語を広げた。これらは決して非科学的ではない。寧ろ科学的に世の真理を明らかにしようとした()()()()()なのだ』

「『……実に的確で面白い』」

 サリエルが上機嫌に博士の言説を翼賛する。

 威厳さの欠片もなく、目を瞑りニヤニヤと頷いている。始終この調子であるから、まったく掴み所がない。

「『人の子は長年に渡り、あまねく世界を理解しようとした。天地(あめつち)、山川草木、星辰(せいしん)の移ろい……その多くが我が手に余る。手に触れられる物は良い。だが()()()()()()()は?』」

『理解不能な不思議は()()()()()となる。必然全てが崇拝対象となる。そこには特異な力も含まれる』

「『僕のような、そして、君のような――』」

 ――邪眼。


『邪眼は洋の東西を問わず、と前に言ったろう? おそらく原初の邪眼は目付きの鋭さ、狩猟時の目配せ(アイコンタクト)程度のものだったのだろう。しかし、人間はこの眼に神聖性を付与して外枠を設けた。この『サリエル』も、君が見たであろう地中を這う『太歳』も、枠の形態に差異はあれど邪眼の本質は()()()()()。だが、当人達の邪眼は違う存在と認識しているし()()()()()

 サリエルがチラリと視線を投げかける。

 それは邪視、邪眼の始祖にして、死を掌る天使の――(おど)け。

 だがその先は私だけじゃない。

 人類全てを嗤っているのだ。

 あの化け物の眼と、この美青年の眼が――同じという話に。

「『――おっかしい話だよねぇ! ある人は僕を()()使()()()()、ある人は()()使()()()()()。要は「舞台演芸」なんだよ、君ィ』」

 両手を大きく広げ天井を見上げる。

 そこに天はないというのに。

「『人の子は建物を作り、座席も作り、照明や音響、舞台装置の全てを作り上げた。演者である怪異達をも()()()()()()()。――にも関わらず()()()()()()()()、観客席に座る自分達は演者(怪異)達に支配されていると嘆き、慟哭し、悲嘆に暮れている。こんな馬鹿な連中なんだぜ』」

 饒舌に(たと)え話をぶちまける。

 感情を乗せて人間を愚弄する。

 分かりやすい話だ――、だが。

『待ってください。それじゃ怪異は、……いえ、天使も含めて……まさか』

「『そうだよ。――()()()()()()()()()()()()()なんだよ、僕達は』」

 飄々と。

 にべもなく。

 後悔も憤怒もなく。

 天使は冷たい視線を私に寄越す。

 私を通して人間全てを満遍なく嘲り侮蔑する。

 しかし、隣にいる博士は一(ミリ)も動ぜずに、口角真一文字のままである。

「『怪異だけじゃない。天界魔術(アラビア魔術)だろうと、君達が苦戦した北欧魔術(ルーン文字)だろうと関係ない。ぜーんぶ、君達が作り出して()()()()()()()()のさ』」

『その事実を認識出来る怪異(演者)は――、いや、人間も非常に少ない。演者は自分が本当に演者と思い、観客は本当に観客と思い込む。演者(怪異)観客(人間)を支配してると思い込み、観客は支配されていると思い込む。これが()()()()()()()()()()()()()()()だ』


 創造者(全人類)の落ち度――。

 そうとしか言えない。

 脚本や演出なんて関係ない。

 構造的な視点の剥落ここに極まれり。

 人類が恐れ敬い身悶えし顔を引き攣らせる恐怖は、全て己の眼と頭が生み出した産物。

『今まで戦ってきた怪異も、この邪眼も「神聖化」も――全て、人間が?』

『実際に不可思議な現象なんて山のようにあるだろう? だが、それを人間が思い込んだ時に、――あぁ、一人じゃ駄目だ。()()()()()()が無ければ駄目なんだろう。()()()()()()()は小さくとも、何百、何千、何万、何億、何十億と集積すれば()()()()()()()()()驚異的な異能になる』

「『人の子はこの世の全てに意味を求め、意味を与えてしまう。小さな異能が数を成し、この世を作り変えてしまう。――本当に愚かしく我が儘で、恐ろしい()()()()()()だよ』」

 サリエルの瞳が、僅かに揺らぎ、――地に墜ちる。

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