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ディバイン・インキュベーター1946~東京天魔揺籃記~  作者: 月見里清流
第四章 呪われた力の行く末
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12-4 Awakening(帝国の遺産)――都内某所

挿絵(By みてみん)



「『どいつもこいつも! 役立たずばかりだ!』」

 激高――。

 怒鳴り散らしながら両腕をいからせ打ち震えている様は、恐ろしさと共に()()()()もあった。

 しかし、おかしい。

 絶対多数を前にして毒を吐く余裕があるのか――?

『聞こえますか、みなさん!』

 緊張感を伴いながら、キャサリンの可愛らしい声が脳内に響いた。

『レフチェンコが装備しているのは、恐らく「ヴェアヴォルフ」が使用していた魔術防御が付与された()()()の亜種と思われます。あの当時と同じ性能(スペック)なら、通常弾頭、物理的な衝突エネルギーはほぼ無効化されてしまいます』

 再確認を含めてだろうが……随分と恐ろしい話である。

 銃弾も剣も、爆発も効かない。

『昔見たのとはちょっと違うが……、あの()()()()()()()()()()は違いねぇ』

 クラウディアが憎々しげに唸る。

 アーマーベスト――。

 禍々しい黒を帯びる肋骨。鎧にしては空間が空きすぎている。

 しかし、随所に見たこともない古代文字らしき文様が刻まれ、金色に輝き生きているように()()()()()()

『ナチの魔術防御――。ルーン(秘密)文字に秘められた霊的変換機能を使い、重力や電磁力など様々な力を統一的に記述・理解し、出力できる「統一場理論」に関係しているとも言われる』

()()はただの音素文字じゃない。扱う人間が適切に施術すれば、強大な力を秘めた呪物が完成するんだ。もっとも「魔術防御」ですら、試験段階の代物でしかないけどな』

 隊長とマイクが流暢に補足してくれた。

 幾ら試験段階の代物でも十分すぎる脅威。

 その脅威を身につけた悪漢が、こちらに敵意を向けているのである。


『……さぁ、試してみたらどうだ? 試験段階の代物だろうが、貴様ら有象無象の攻撃が通用するかを』

『――ッ!』

 腕をいからせていたレフチェンコが、口元を歪ませながら挑発する。自信たっぷりの奴の様子に隊長が一人驚く。

 痙攣と見紛う早さで消音器付拳銃(HMDスタンダード)を構え、即座に発砲した。

 照準器を覗かない。

 腰脇から即座に射撃するポイント・シューティング。隊長の最も得意とする射撃姿勢にて――引き金(トリガー)が引かれた。

 耳を擽る気の抜けた銃声。

 弾頭はレフチェンコの胴体に吸い込まれる――()()()()()

『……嘘だろ』

 ――驚かずにはいられない。

 弾着光環(クラウン)がない。

 当たり前だ、()()()()()()()のだ。

『まさか神聖化弾頭まで!』

 レフチェンコは鈍色(にびいろ)に輝く空間の皺みに包み込まれており、本来見えないはずの弾頭は玩具の独楽(コマ)のように中空でぐるぐると廻転している。

 1秒もせずに勢いは失せ、カラカラと甲高い音を立てて床に転がった。

『……バーナード!』

『了解!』

 隊長の叫びにバーナードが応える。

 刹那、窓の向こうから銃声が聞こえ、何かが飛び込んで来たのが分かった。何もなければ『弾丸』であることも飛び込んで来たことさえも認識出来なかったろう。

 だが、音速を超えて飛来した7.62mm(.30-06)弾はレフチェンコの右側頭部に刺さることなく、手前数十(センチ)の中空で虚しく廻転し拳銃弾と同じく地に墜ちるしかなかった。

「『()()()()をあれだけの短期間に改良したのか!』」

 デービッドが銃口を向けながら驚きの声を上げた。

 欧州戦線で遭遇した「ヴェアヴォルフ」達には神聖化弾頭が良く効いた――。バーナードが函館要塞でそう言っていた。

 だが、現実はどうだ?

 レフチェンコは、それはもう見るも腹の立つ()()()()で、歯を剥き出しに高笑いしながら持論を巻き散らかす。

『――ハッ! 我々が何も「帝国の遺産」を奪うだけの泥棒とでも思っていたのか? 技術は常に進歩し続ける。心霊(psychical)研究(research)超心理学(パラサイコロジー)は夢物語から科学へと進化したのだ!』

 これが余裕の理由か――。

 怖気が頭から背中に抜けて降りていく。コイツには通常の銃弾も、神聖化された銃弾も効かないのだ!

『クク――、()()()()()()()()()を採用し、兵士にサイキックガジェット(霊的防護装備)を大量に配備できれば……、後は分かるだろう? え?』

 自信は饒舌に夢想を口から零れさせる。だが――ただの夢物語ではない。床に落ちた弾頭が()()を物語っていた。

『その力を使って為すことは――西欧侵略か』

『ハハハッ! 君達「神聖同盟」はあまりに愚図で鈍い! 本当に雑多で統率に欠ける組織だ。人類のためという()()()()()、肝心の霊能兵器の研究が進んでいないではないか! ……あぁ、反吐が出る。犬は(Собаке)犬死に(собачья)するものだ(смерть)。帝国の遺産を受け継いだ秘術――永久(постоянная)氷柱(сосулька)に貫かれて苦しむが良いッ!』

 口元が――何かを呟く。

 ぼそぼそとしか聞こえないが、その言葉と共に奴の両手から俄に白い靄が溢れ出した。

 スモーク。

 いや、冷気だ。

 ……何だあれは?

 奴の(てのひら)に、何かが浮かんでいる。

 暗がりに目を凝らすと――それは氷。

 見るも弥立(よだ)つ程に鋭く、鏃のようにピンと伸びた10(センチ)ばかりの()()が、不気味に浮いているのである。

 突然レフチェンコが右腕を上げ、手のひらを我々に向ける。

 その五指は厳つく歪み、人を呪い殺せそうな凶悪な手つきである。

『――()()()()!』

『マズイッ!』

「『遅いぞッ――!』」

 射出(стрельба)ッ!

 叫びと共に掌の氷針は、まさしくも弾丸のように。

 重低音の耳障りな風切り音を響かせて、光り輝く軌跡は空を切り裂く。ビーム条に輝く弾道の先、氷針は吸い込まれるように隊長の左上腕部に突き刺さった。

 貫き、抉る。

 隊長の低い唸り声と共に、鮮血がほとばしった。

『隊長――ッ!』

『……大丈夫だ!』

 上腕部から生えるように斜めに突き刺さった氷の弾丸。

 角度が良かったのか、鍛えられた筋肉の成せる技か。きっと骨には達していないだろう。これくらいならデービッドが手当をすれば問題ない。

 しかし、弾丸はもう一つ。

『次だッ!』

 間断なく続け様に。

 氷の弾丸は異音の光線となり、胸部を狙ったであろうそれは、僅かに逸れてマイクの左肩に深々と突き刺さった。

『ぐッ――!』

 隣に立っていたマイクが嗚咽を漏らし、弾着の勢いに負けて腰からドンッと倒れ込んでしまった。

「『マイク!』」

 私がしゃがみ助けようとすると彼は右手で手を振った。

 無事だ――、と言いたいのだろう。

 左肩に突き刺さった氷柱は過剰なまでに白く輝いている。

 ただの氷ではない……。

「『うぉおおおおおッ――!』」

 突然、クラウディアの雄叫びが響き渡った。

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