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ディバイン・インキュベーター1946~東京天魔揺籃記~  作者: 月見里清流
第四章 呪われた力の行く末
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10-6 mayhem(ウリエル)――旧函館要塞

挿絵(By みてみん)


『ここにも遺体が……』

 デービッドの怖気が伝わる声色。

 ここも同じだ。

 充満する血の臭いと人の焼け焦げた臭いが、鼻から脳を麻痺させてしまう。

 5人……か。

 円形の研究室を見渡すと、手前から奥にかけてバラバラと男達が斃れている。戦場で幾度も見た不格好な体勢で人が死んでいる。右側の一人だけは壁の機械にもたれ掛かり、まるで生きているようである。

 いや――、違う。


「『ロ、バート……、ロバートか……』」

 生きている――!

 弱々しく霞むような声色であるが、確かに隊長の名を呼んでいる。

 左半身の所々が焼けているが、今まで見てきた遺体に比べれば傷は浅い。

「『ジェームズか!』」

 ロバート隊長が声を荒げて駆け寄る。

 銘々が警戒を維持しつつ、男を囲うように銃口を周囲に向けた。床を見遣ると、私が今構えているものと全く同じ機関銃(グリースガン)が転がっている。

 ――本当に米軍の連中なのだろう。

 ジェームズと呼ばれた男は震えるように顔を上げる。

 少し肥えた中年の白人。

 短髪で中背であるが、僅かに禿げ上がった頭からは出血があり、一筋の赤い線がこめかみから頬に滴っていた。

「『何があった! 廊下のソ連兵共もお前達も、()()()()()()?!』」

 隊長の問いにジェームズは力無く首を振り、わなわなと震える視線で隊長を睨んだ。

「『き、貴様が、悪いんだ……。ドイツで()使()()()()()()()を怒らせたからだ……』」

 ――マンセマット。

 ドイツ南部で姿を現した()使()()()()()()()()

 彼は天使と言う。

「『我々は……神の恩寵を受け、邪悪なナチ共を神の炎で焼き尽くすはずだった。卑劣なジャップ共もだ! 米英は神に祝福されなければならない……。なのに貴様は!』」

 まるで「鬼畜米英」の鏡映し。

 憎き相手を呪い、汚い言葉で罵る。

 どの国でも起きることなのだろうが聞くに堪えない。この男は私など眼中にないのだろうが、よく面前で呪詛を吐けるものだ。

 私が溜め息交じりに双眸を瞑ると、突然隊長が昂然と声を荒げた。

「『違うッ――! 我々は()()()()()()()! 悪魔だろうと天使だろうと関係ない。祝福も呪いも全ては怪異に過ぎないのだ。()()()()()()()()を、魂を売り渡してまで()()()()()()しようとは、……情けないッ!』」


 ――本当に良い人なんだな。

 隊長の背中が頼もしい。

 私達の仕事は人を守ること。

 そんな単純なことが、ジェームズというこの男には分かっていないのだ。

 隊長の爆発的な感情の発露に皆が一様に顔を上げ視線を送る。

 すると、まるで呼応するかのように言霊石エンタングルメントストーンが蒼色の輝きを増し、この円形の研究室を目映く照らし始めた。視界いっぱいの蒼に包まれた中央研究室で、俄に脳内に響き渡るのは……雄々しい祝福の声。


『――君らが、噂の人の子か』

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