10-6 mayhem(ウリエル)――旧函館要塞
『ここにも遺体が……』
デービッドの怖気が伝わる声色。
ここも同じだ。
充満する血の臭いと人の焼け焦げた臭いが、鼻から脳を麻痺させてしまう。
5人……か。
円形の研究室を見渡すと、手前から奥にかけてバラバラと男達が斃れている。戦場で幾度も見た不格好な体勢で人が死んでいる。右側の一人だけは壁の機械にもたれ掛かり、まるで生きているようである。
いや――、違う。
「『ロ、バート……、ロバートか……』」
生きている――!
弱々しく霞むような声色であるが、確かに隊長の名を呼んでいる。
左半身の所々が焼けているが、今まで見てきた遺体に比べれば傷は浅い。
「『ジェームズか!』」
ロバート隊長が声を荒げて駆け寄る。
銘々が警戒を維持しつつ、男を囲うように銃口を周囲に向けた。床を見遣ると、私が今構えているものと全く同じ機関銃が転がっている。
――本当に米軍の連中なのだろう。
ジェームズと呼ばれた男は震えるように顔を上げる。
少し肥えた中年の白人。
短髪で中背であるが、僅かに禿げ上がった頭からは出血があり、一筋の赤い線がこめかみから頬に滴っていた。
「『何があった! 廊下のソ連兵共もお前達も、何にやられた?!』」
隊長の問いにジェームズは力無く首を振り、わなわなと震える視線で隊長を睨んだ。
「『き、貴様が、悪いんだ……。ドイツで天使マンセマットを怒らせたからだ……』」
――マンセマット。
ドイツ南部で姿を現した天使の形をした悪魔。
彼は天使と言う。
「『我々は……神の恩寵を受け、邪悪なナチ共を神の炎で焼き尽くすはずだった。卑劣なジャップ共もだ! 米英は神に祝福されなければならない……。なのに貴様は!』」
まるで「鬼畜米英」の鏡映し。
憎き相手を呪い、汚い言葉で罵る。
どの国でも起きることなのだろうが聞くに堪えない。この男は私など眼中にないのだろうが、よく面前で呪詛を吐けるものだ。
私が溜め息交じりに双眸を瞑ると、突然隊長が昂然と声を荒げた。
「『違うッ――! 我々は人間を守るのだ! 悪魔だろうと天使だろうと関係ない。祝福も呪いも全ては怪異に過ぎないのだ。人間が始めた戦争を、魂を売り渡してまで神の力で解決しようとは、……情けないッ!』」
――本当に良い人なんだな。
隊長の背中が頼もしい。
私達の仕事は人を守ること。
そんな単純なことが、ジェームズというこの男には分かっていないのだ。
隊長の爆発的な感情の発露に皆が一様に顔を上げ視線を送る。
すると、まるで呼応するかのように言霊石が蒼色の輝きを増し、この円形の研究室を目映く照らし始めた。視界いっぱいの蒼に包まれた中央研究室で、俄に脳内に響き渡るのは……雄々しい祝福の声。
『――君らが、噂の人の子か』




