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ディバイン・インキュベーター1946~東京天魔揺籃記~  作者: 月見里清流
最終章 未来に希望はあるか
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19-3 戦艦大和撃沈指令――東シナ海

挿絵(By みてみん)



「『それでは頼むぞ』」

 行き先は遥か遠くの南シナ海。しかも海の上をゆっくりと移動している巨大幽霊戦艦である。調査業務だけでも骨が折れるだろうに、本部指令は()()()と来ている。我々日本支部だけでは全く人手が足りない。

「『分かりました。お気を付けて――』」

 先発隊と後発隊に別れ――、立川航空基地を時間差で出発する。目的地は鹿屋米軍基地、……ではない。漂流中の戦艦大和に近い海域に、作戦に協力してくれる航空母艦がいるらしく、そこを拠点にするとのことだった。

 見上げれば、隊長達の乗った輸送機(スカイトレイン)勿忘草色(スカイブルー)の空を滑っていく。ロバート隊長、バーナード、マイク、スティグラー博士が先発で出立する。ただ、スティグラー博士は()()()と同じように籠を持っていた。中身は恐らく――。

 見上げる後発組はデービッド、クラウディア、そして私だ。隊長に曰く、今回の怪異現象に対処するために必要な人物、そして「ラセツ」と合流するために、待機していてくれとのことである。

 ――誰か?

 隊長は語らなかったが、今回の事象は国際問題に直結する程の大問題であれば、今回の事象か()()()()()()()人物であろう。その護衛に「ラセツ」の面々が付けられてくる。そういう段取りの良さは、あの参謀本部跡地での会合を見るに――今までも行われていたに違いない。

 隊長曰く、2時間ほどで「彼ら」と合流できる。後発組の輸送機はスタンバイのままである。航空機の世界は天気に左右される宿命からから、待ちぼうけも慣れたものである。

 羽根を休めた輸送機の麓で私達は待った。背嚢、機関銃(グリースガン)、髭切を叉銃(さじゆう)のようにまとめ、立ちんぼの待ちぼうけである。クラウディアもデービッドも雑談という名の、怪異への対処を話し合っていた所、暫くしてゲート方面から黒塗りの自動車が2、台流れるようにぬっ――と現れた。

 格納庫の影が自動車を飲み込み、屋外の輝きを纏いながら目の前に停まった。ドアが開くと、見慣れた面々が姿を現した。

「『――よぅ! ミエコ、元気だったか!』」

 助手席からミエコが――相変わらずサングラスとお洒落な洋装に身を包み、颯爽と降り立った。

「『クラウディア! 映画館の時以来ね。今日は遊びじゃ無いけれど、よろしく』」

「『あぁ! 最近身体がなまってしょうがねぇからな。派手にやろうぜ』」

 サングラス越しに僅かに見える笑顔は、相変わらず映画俳優らしく眩しい。物騒な乙女の会話の奥で、後部座席からゆるりと音もなく降りたのは黒衣の巫女。

「『ヒノエ、さん……!?』」

 楚々とした佇まいで鋭いながらも暖かみのある眼差し。

「『お久しぶりね、ウラベさん。……お元気でした?』」

 彼女の笑みに何処とない気恥ずかしさが伴っているのを、それとなく感じた。

 ――契り。

 それは千年の恋心。

「『えぇ、まぁ……ぼちぼちと』」

『ヘッ――、なぁにが()()()()()だよ、ウラベ。急にしおらしくなるんじゃネェよ』

「『問題ないわ、クラウディアさん。ウラベさんも壮健で何よりです』」

 ――あの時(加藤大尉)以来、色々(怪異の大同団結)あったが。

 彼女は何処まで真相を知っているのか、艶やかな表情(かお)という御簾の向こう側に問いたくなったが、場を意識して問いは胸中に沈めた。

 それにしても――、もう一人。

 後部座席から見知らぬ男性――恐らく日本人が一人、当惑気味に立ち尽くしている。

 得てして複数人の会話で置いてけぼりを喰らう()()()()は嫌なものだが、状況が読み込めない様子の男が視線を泳がせている。黒い短髪の撫で髪、細い黒縁眼鏡を掛けた男性である。年齢は三〇以上だろうか――、歳は分からない。

 焦げ茶色のスーツにしっかりと締められたネクタイ。この基地では見ることのない立派な出で立ちだ。物腰柔らかそうな顔付きであるが、この状況に隠せない戸惑いを見せている。

「『この方は――』」

「『ごめんなさい、乗ってから詳しく説明するわ。今は時間が惜しいもの。……よろしくて?』」

「は、はい……」

 この間にももう一台の自動車から、彼女達の荷物が運転手、助手を合わせてテキパキと降ろされていく。輸送機の添乗員も出てきて、淀みない手つきで荷物が流れる。その様子に合わせるようにミエコに急かされながら、輸送機に搭乗した。

 轟音と共に滑走路をタキシングし、きつめのシートベルトに身体を縛られながら、真白き雲を目指すように機体はふわりと舞い上がる。函館以来ではない。別途細かな事件で空の旅も幾度か経験済みだ。だから怖いことはない。

 搭乗する度に、背中を捻って四角い窓から外を望む。

 いつもの立川基地。

 高度を上げ、立川の街が辺り一帯の緑に包まれていくようだ。小さく小さく、小さく小さく――()()()()()()()()()()()()()()()()()

「『……ウラベ、もういいですか?』」

 デービッドの声にハッと振り返った。

 目に余るほどに(ぼう)としていたようだ。

「『すみません、大丈夫です』」

「『もう機体も安定したわ。――鹿児島の鹿屋基地までは4時間くらいかかるわ。長くなるけどその間に事情説明と行きましょう』」

 ミエコがチラリと視線を流す。その先は、神妙な顔付きのまま、無言で眉を顰めている日本人男性。我々は全員事態を知っているが、彼は何処まで知らされているのだろうか?

 そもそも――誰か。

「『紹介するわ。この方は牧野さん。元海軍大佐の造船技術者。例の戦艦大和の建設、設計に携わった方よ』」



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