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美しい花には毒がある。当然でしょ、そんなこと  作者: 悠木 源基


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第73章 告白


 本来ならば裁判が終わるまで待つべきだったのかもしれない。

 しかし、この世の中いつ何が起こるかわからない。好機を逃せば、二度とチャンスは訪れないかもしれない。

 彼女への思いだけは、今はっきりと伝えておきたい。

 

 勇気を振り絞って思いを告げると、彼女はすんなりとそれに応じてくれた。

 しかし、ここで満足しては駄目だ。私はさらに自分に発破をかけてこう告げた。


「今度の日曜日、子爵家にお邪魔して挨拶をさせてもらおうと思っている。家に戻り次第先触れをださせてもらうが、構わないだろうか」


「もちろんです。

 ただ、今日の午後にご予定は入っていらっしゃいますか?」


「いや、今日はディアナ嬢とゆっくり話をしたいと考えていたので何も入れてはいない」


 私がそう答えると、彼女は両手を胸の前で組み、まるで溢れ出るる感情を抑え込むかのようにしてこう言った


「それでは、午後のお茶は我が家でしませんか? もちろんカイル様もご一緒に」


「はっ?」


「もし今日ルシアン様に告白されたら、お茶にご招待しなさいとお母様に言われたのです。

 カイル様もいらしたら絶対にお連れしてと」


 今日私が告白するとみんな分かっていたというのか! 

 カイルだけでなく、昨日殿下もニヤニヤしていたし。

 恥ずかしい。恥ずかし過ぎる。


「しかし、先触れ無しにいきなり訪問するのは、いくらなんでもマナー違反だろう。これ以上夫人にマイナスイメージは与えたくないのだが」

 

 そう尻込みすると、ディアナは言った。


「お母様がお父様を説得させるためには、事前に作戦会議をした方がいいのではと言うのですが」


「なるほど」


「それにお母様はカイル様にもお会いしたいんですって。

 スレッタ様のことをとても気に入ってしまって、できればお二人が早く挙式を挙げられるように協力したいからって」


 ありがたい! 思わず身を乗り出した。

 私は色恋事だけでなくイベント事にも疎い。それ故に、どうやって二人に結婚の話を振ればいいのかと悩んでいたのだ。

 やはりこういう事は、経験者豊富なご婦人にお願いするが一番いいだろう。


 そしてディアナ嬢はさらにこんなことも言い出した。


「お兄様がどうやらスレッタ様のことが気になっているらしいのです。

 本人はおそらく気付いていないとは思うのですが。まあ、スレッタ様は素敵だから当然といえば当然だと思うのですが。

 たから、本人がその恋心に気付かないうちに、諦めさせてやりたい、ってお母様が言うのです」


 なるほど。

 フィリップ君、ごめん。

 できれば親友となった君の応援をしてやりたいところだが、こればかりは無理だ。

 本人達に聞かれたら、それこそ塵屑を見るような目で見られると思うのだが、カイルとスレッタは運命の恋人同士なんだよ。


 幼なじみでツーカーの仲。

 頭脳明晰だが言葉足らずで無表情。そんなカイルを分かってやれるのは、同じくらい頭が良くて人の心の機微に敏感なスレッタくらいだ。

 まあ、あの気の強い彼女を受け止められるのも包容力のある彼だけだしね。


 フィリップ君はシスコン気味で多少マゾっ気がありそうだから、たしかにスレッタは好みのタイプかもしれない。

 しかし、彼女はああ見えて君より大分年上だし、豪胆な性格だから、君には少々荷が重い相手だと思う。今回は諦めてくれ。



 結局図書館の中に入ることはなく、四人一緒に中庭のテーブルでランチタイムを迎えた。

 久し振りに食べたディアナ嬢のサンドイッチは最高だった。

 あの無表情で無口なカイルまでが、薄っすらと笑みを浮かべ、美味しいですと口にしていた。

 そんな彼を見たスレッタは、今度はこのサンドイッチの作り方を教えて下さいと、ディアナ嬢に懇願していた。


 食事を終えたところで、ディアナ嬢は先ほどのお茶会の話をした。

 スレッタは目を丸くして


「午後のお茶の時間にお客様がお見えにると奥様がおっしゃっていたのは、ルシアン様のことだったのですか」


「それとカイル様のことです」


「「えっ!」」


 二人は同時に声を上げた。


「お母様が、ルシアン様だけでなくて、カイル様にもお会いしたいのですって。

 ほら、幼なじみで執事であるカイル様とルシアン様のやり取りを見れば、(二人の)素の性格がわかるだろうからって」


「でも今それを暴露してしまっては意味がないのでは?」


「ええ、まあ」


 カイルに突っ込まれてディアナ嬢は笑って誤魔化していた。

 夫人はおそらく私やカイルの人間性を本気で疑っているわけではないだろう。

 彼女達の話から僕達がいかに不器用な男なのかはわかっていると思うし。



 ランチの後、お茶の時間にはまだ間があるので、これまでのように四人でようやく建物の中に入った。

 春も中頃になったとはいえ、まだ気温が低かったので、その室内の温かさにほっとした。

 いつもの図書館司書の女性は、私達が四人でやってきたことで何か勘づいたようだ。

 ディアナ嬢とスレッタに小さな声でこう言っているのが耳に入ってきた。


「もしかしたら、例の恋愛成就の栞、効果があったのですか? 

 私も頂いた押し花付きの栞を落として、それをたまたま拾ってくれた男性と今お付き合いしているんです。結婚前提で。

 本当に効きますね、このアイテム。

 ずっとお礼を言いたかったんです。ありがとうございました」


「効果があって何よりです。私達もなんとか上手くいきそうです」


 スレッタがそう答えていた。

 本の虫で結婚する気なんてないと言っていたそうだが、栞が縁で結ばれたのなら、きっとお相手も本好きだったのだろう。

 お幸せに。

 それにしても、ディアナ嬢は本当に凄いな。あちらこちらで愛のキューピッドをしている。

 彼女が死んだ振りをすると言い出さなかったら、多分ロンバード子爵夫妻は愛し合いながらも、生き別れのままになっていたことだろう。

 そして、夫婦として再構築することはできなかったに違いない。

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