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美しい花には毒がある。当然でしょ、そんなこと  作者: 悠木 源基


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第71章


 その後母はあっさりと陥落して、訊ねられたことに対して素直に答えた。

 父親や兄と一緒に違法薬の製造販売に加わっていたようなキンバリーとは違い、母は所詮ただの世間知らずだった。

 何せ初恋に夢中になっていた脳内お花畑の元伯爵令嬢で、男遊びしかしていなかった名前だけの元侯爵夫人だったのだから。


 父親と兄から魅了効果のある違法薬物を譲り受けて、学園時代からロンバード子爵に使っていたことをさも当然のことのように語った。

 その他にも、義父との関係が嫌で、自分で媚薬を使っていたこと。

 若いツバメを集め、繋ぎ止めるためにその魅力薬物と媚薬を両方をしていたこと。

 そして、自分の真実の愛を邪魔するロンバード子爵夫人を離縁させようとして、紅茶の中に媚薬を混ぜたことも。


 ただし、ロンバード子爵夫人を殺すつもりなんて全くなかったと、それに関してだけは強く主張していた。

 彼女が夫に蔑まれ、憎まれ、惨めに離縁される様を見たかったのに、殺すわけがないと。


 私やカイル、そして書記官二人もあまりの醜悪な発言に怒りを禁じ得なかった。

 キンバリーの言う通り殺意はなかったのかもしれない。

 しかし、人の心身を破壊するようなその行為は殺人と大して変わりはない。

 なんの悪びれもなくそう話した母に、皆、憎悪だけでなくゾワッとした感覚に襲われた。

 化物だ、この女は。

 そして同情の余地一切無しと判断した。


「その爛れは放っておくとますます酷くなりますよ。特効薬はあるのですが、さっき見たでしょう? 私が使い切ってしまったので、もうありません。

 えっ、早く新しい薬を持ってこいですか?

 無理ですね。

 さっきキンバリー嬢にもお伝えしたのですが、あの薬はな、天才だったフローディア嬢が作ったものなんですよ。

 彼女が優秀だったことはあなたもご存知でしたよね?

 彼女しかその製法はわからないのだそうです。

 つまり、彼女が亡くなった今では、もうあの薬を作れる者はいないということなのですよ。

 でも、問題はないでしょう?

 毒花の貴女が毒花を咲かせただけなのですから」


 カイルの言い放ったこの言葉に、母はキンバリーとは違って一声も上げずに気を失ったのだった。


 その翌日、母とキンバリーは起訴された。

 これでようやく、今回逮捕した全員を全て起訴することができたのだった。



 ✽✽✽




 第三騎士団所属だったファスト卿に辞令が下りた。彼は明日から国の行政府付き騎士になることになった。

 そんな彼に大変申し訳なかったが、最後の任務のついでに私的な言付けを頼んでしまった。

 絶対(・・)に間違いなどが起きないようにディアナ嬢に連絡を取らなければならない。そのためには、彼でなくては駄目だったからだ。

 私は騎士の中で彼のことを一番信頼しているのだ。その身体能力だけでなく彼の感性においても。

 だからこそマッケイン団長に無理を言って、ディアナ嬢との連絡係り兼護衛をファスト卿に頼んでいたのだ。


「明日の水曜日、図書館でお待ちしています。絶対にお出でくださるようにお願いします」


 短いメッセージだというのに、それを書くために体中のエネルギーを全て使い果たしたのではないか、と思えるくらいに疲労困憊になった。


 翌日の朝、ディアナ嬢はスレッタと共にやって来た。

 それは想定内だった。だからこそ、こちらもカイルを連れて来たのだから。

 彼女は以前のように母親譲りのバスケットを手にしていた。そしてスレッタも新しいバスケットを手にしていた。

 私がそれを目にしているのに気付いたディアナ嬢が言った。


「あのバスケットは私が(とう)で編んで作ったのです。本当は蓋まで作りたかったのですが、少し難しそうだったので今回は諦めました。

 その代わり可愛いいスミレ柄の生地があったので縫い付けてみました。レースの飾りと共に。

 スレッタ様に似合うと思われませんか?」


「貴女が作ったのか? すごいな。器用だとは思っていたが。

 うん。彼女によく似合っているよ。

 それで、中身の方は誰が作ったのかな?」


 スレッタは一流の侍女、いや忘れかけていたが、彼女は一流の行政府に所属する官吏だった。

 スパイ活動を主な仕事にしているため、城にいないことがほとんどだったが。

 彼女は何でもこなせるスーパーガールだ。とはいえ、元々男爵令嬢である彼女が料理まで作れるという話は聞いていなかった。


「今回は私が作りました。お二人へのお礼のつもりで。

 でも次の機会のはご自分で作りたいとおっしゃっていましたよ。好きな方に自分の手作りを食べさせたいからと」


 歩きながらにこやかに話をしていたディアナ嬢だったが、図書館の裏庭のいつものベンチに辿り着くと、急に真剣な顔をしてこう言った。


「スレッタ様は今後平民になったら、料理人を雇うわけにはいかなくなるから、ご自分で作れるようになりたいそうです。

 ですからお料理をお教えてほしいと頼まれて、今食事作りを手伝ってもらっています。

 でも、カイル様は男爵家のご嫡男ですよね?スレッタ様も男爵家のご令嬢だとお聞きしています。

 なぜ平民になるのですか?」


「平民になんかならないよ。

 ただ、今回の件で我が侯爵家は取り潰しになるかもしれない。

 祖父と母は直接違法薬物の密売取に関与していたわけではない。

 しかしそれを知っていたのに告発することもなく、横流しされた薬を使用し、他人にも使っていたんだからね。

 しかも母は貴女の母上を殺しかけたのだ。

 いくら今は離縁しているとはいえ、その犯罪行為は婚姻中に行われたのだから、その責任は我が家にある。


 私はその罰を受けなければならない。

 とうに平民になる覚悟はしていたんだ。そして仕事を解雇されることも。

 でも困ったことに、カイルとスレッタはそれでも私に従うと言ってくれているんだよ。平民になったとしても。

 でもね、彼らにそんな真似をさせるつもりはないんだよ。私にとって大切な人達だからね。

 カイルならどこの家の執事にでもなれるし、国からもお誘いが山程くるだろう。

 スレッタも優秀な官吏だ。国の方が辞めさせないよ。

 ディアナ嬢、心配しなくてもいい。どんなことをしてでも二人を幸せな夫婦にしてみせるから」


 ディアナ嬢は私の目をずっと見つめていた。そしてそれをそらさずにこう訊ねてきた。


「それをお聞きできて嬉しいです。

 子供っぽい単純過ぎる考えだとは分かっているのですが、私は努力している人、頑張っている人、誠実な人には幸せになってもらいたいのです。

 そして大切な人、好きな人達にも。

 その中にはカイル様とスレッタ様だけではなくて、ルシアン様も含まれているのですが、貴方もちゃんと幸せになれますか?」


 と。

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