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第48章 罠に掛かった子爵夫人


「私が疑惑のある議員達の動向を探って会場を歩き回っている間に、妻はレイクレス伯爵夫人とジルスチュワート侯爵夫人によって、二階の小部屋に連れて行かれたようです。

 招待主に誘われては拒否できなかったのでしょう。

 そこで彼女達に何を言われたのか想像すると、申し訳なくて辛くて堪らないのです。

 そこで妻は出された酒を飲みながら二十分ほど会話を交わした後、パーティー会場に戻ろうとして階段から転げ落ちたそうです。

 彼女からかなりアルコールの匂いがしていたので、酔っていたせいでよろめいて落ちたのだろうと警らの騎士に言われました。

 しかしそんなはずはないのです。妻は酒を嗜まないのですから。

 もし本当に飲んでいたとしたなら、無理やり他人から飲まされたとしか考えられないのです」

 

 ロンバート子爵は固く握った膝の上の両拳を震わせながら言った。

 彼は事故当時からそう言い続けてきた。

 しかし、もしレイクレス伯爵夫人とジルスチュワート侯爵夫人が、無理やりにロンバート子爵夫人に酒を飲ませていたら、その痕跡が残っているはずだ。

 しかし事故直後に調べたがそんなものはなかったと、鑑識作業をした者に相手にされなかったそうだ。

 

 その話はディアナ嬢からも聞いていた。母は絶対に酒など飲まない。

 一口飲んだだけでもご不浄に駆け込むくらいに体調不良になるのに、出先で飲むわけがないと。

 ディアナはとても言い難そうにしながも、疑惑があることをわかって欲しいと、必死に説明してくれた。

 ドレス姿の女性にとって、ご不浄を利用するのは至難の業だ。

 特に使用人のいない場合は、粗相をする可能性だってあるのだ。それがわかっているのに、母がお酒を飲むはずがないのだと。

 それでも、たしかに家に運び込まれてベッドに横たわっていた母からは、お酒のような匂いがしていましたと。

 

 そしてそれから少し経った水曜日のある日、思い出したようにディアナ嬢はこう言ったのだ。

 

「そういえば、我が家でお茶会をしたとき、ジルスチュワート侯爵夫人とキンバリー様から香ってきたあの薔薇に似た甘ったるい匂いを覚えていますか?

 以前嗅いだことあると言いましたよね、それをやっと思い出しました。

 母が事故に遭った日、母の体に纏わりついていたアルコールの匂いとは別に、甘ったるい香りもしていたのですが、それによく似ていました」

 

 それを聞いて、もしかしたらそれは酒ではなく、違法薬物か何かの匂いではないか。

 そう思った私は、何人かの薬品の専門家の元を訪ねて調べてみた。

 そしてついにその匂いの元がなんなのかを突き止めることができたのだ。

 

 

「ロンバート子爵、貴方が夫人の死に疑念を抱かれたのは、正解でした。

 夫人は飲酒などしていませんでした。出された紅茶を飲んだだけだと思います。

 そしてそれに特殊な媚薬効果のある薬が入れられてあったと考えられます」

 

 私がこう言うと、ロンバート子爵親子は驚くと同時に意外だという表情をした。

 

「毒ではなくて、媚薬ですか? なんのためにそんなものを母に使用したのですか?」

 

「おそらく、ナタリー夫人に男が近寄って来るように仕向けて、浮気をしていると夫である子爵に思わせたかったのでしょう。

 夫人は色気ではなくビジネスの面で興味を持たれていた男性が多かったのでしょう。

 しかし、それを理解出来なかった愚か者達が、夫人を男好きだとか浮気者だとか、下衆な噂を流していたそうですね?

 私の母親と義伯母はそれを利用しようとしたのでしょう。

 その媚薬は自分達も使用していたから、その効果も実証済みだったので、彼女達はその成功を信じていたのでしょう。

 

 その媚薬はリキッド状で透明で無味無臭です。ですから、紅茶に垂らして夫人に飲ませても、誰にも怪しまれない、気付く者なんていないと思ったのでしょう。

 ところが、それが一旦人の体に入ると化学反応を起こして、微かですが薔薇に似た甘ったるい匂いを発するのです。

 そしてその匂いを嗅覚の鋭い異性が嗅ぐと、引き付けられて魅了させてしまうのです。

 しかも、その媚薬を体に含んでしまうと、たまに体内でアルコールと似たような成分が作られてしまう人がいるそうです。

 つまり、夫人は不運にもそのたまたまに当てはまってしまったのだと思われるのです。

 夫人はアルコールを分解する能力がほとんど持っていない体質だったというのに。

 そのせいで夫人の体調は急激に悪化し、階段から落ちたのだと思います。

 そう考えれば全ての辻褄が合うのです」

 

「父と私が使われたという薬も、その媚薬なのですか?」

 

 顔をガクガクと震わせて何も言葉を発せられないでいる父親に代わって、フィリップがこう質問してきた。

 

「ええ。おそらく。しかし子爵の方には、さらにその中に何かが付け足されているのではないか、と我々は思っています」

 

「「えっ?」」

 

 ロンバート子爵親子は同時に声を上げた。

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