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美しい花には毒がある。当然でしょ、そんなこと  作者: 悠木 源基


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第47章 誤解とすれ違い2


 なんてひどいやつなんだ。己の立身出世のためだけに、病気の女性に無理やり夜会参加を強要するなんて言語道断な行為だ。

 

「子供達を参加させるわけにはいかないから、私はナンシーに強めに同伴を強要してしまいました。

 それにフィリップにも関することだから、親なら無理しても参加してくれと。

 本当の理由は言えなかったので、適当にそれらしい名目を付けたのですが、後になって考えればそれは妻の誤解を招く発言でした。

 あの時妻は絶望したような顔で私を見ていました。あんな顔を見たのは初めてでした」

 

 その言葉に私もはっとした。もしやナンシー夫人は勘違いをしたのではないかと。

 

 

 子爵は息子を伯爵家とは関わりをもたせたくないから、息子のためにと言ったのだ。

 しかしその言葉を夫人は、フィリップとレイクレス伯爵令嬢キンバリーを婚約させるために、母親として参加しろと言っているのだと解釈したのかもしれない。

 

 深く愛し合いながらも親によって無理やりに引き裂かれ、互いに好きでもない相手と政略結婚させられた悲恋の恋人達。

 自分達が結ばれないのなら、せめて自分と血の繋がりのある子供達を結ばせて、縁を繋ぎたい……と夫が願っているのではないか。

 そうナンシー夫人が勘ぐってしまったのではないだろうか。

 もしかしたら、社交場でそんな噂がまことしやかに流れていたかもしれない。

 

 暇なご婦人達は想像力が逞しく、恋愛小説家のように自分の都合のよい物語を作り上げる。

 そして、さも本当のことのように流布していくのだ。そのでたらめな話で傷付く者がいるなんてことは、考えもしないで。

 いや、わかっていて意図的にやっている者もいるのかもしれないと、ふと自分の母親の顔が浮かんでそう思った。

 

 それにしても、もし夫人がそう勘違いしたというなら切な過ぎる。

 ロンバート子爵は深く深く妻を愛していた。それこそ真実の愛だったと思う。

 そしてそれはナンシー夫人も同じだった。彼女の日記には夫への思いが毎日のように綴られてあった。

 しかし、愛しているからといって不安にならないとは限らない。

 愛されていると感じていたとしても、それが永遠なものだと安心していられるわけでもない。

 

 社交場ではいつも夫とは釣り合わないと散々揶揄され続け、夫と侯爵夫人との過去の伝説だけでなく、現在もいかに仲睦まじいかを聞かせられ続けたのだろう。

 それはまるで地獄のような日々だったに違いない。

 しかも、以前ならできるだけ側にいてくれようとしていた夫が、近頃はずっと自分を放置してどこかへ行ってしまう。

 もしかしてかつての恋人、いや新たな恋人でもできて逢引きしているのだろうか。そう夫人が疑っても仕方ないと思う。

 まさか上司の命令で、情報収集のために動き回っていたとは思いもしなかっただろうから。

 

「こんな平凡な容姿でおしゃれの一つもできない田舎者の私に、とうとう愛想が尽きたのかもしれない。

 もしそうだったとしてもあの人を責められないわ。だって私があの人に釣り合っていないのは本当だもの。

 でも、男爵家へ帰れと言われるまでは、絶対に自ら身を引いたりしないわ。だって、旦那様を愛しているから」

 

 ナンシー夫人の日記の最後の方にはこう書かれてあったから、私の推測はあながち間違ってはいないだろう。

 しかしこの推測を今さら伝えてもどうしようもない。子爵を苦しめるだけだと私は思った。

 しかし、私と同じことを思ったらしいマッケイン伯爵が、その推理を述べてしまった。

 両手で頭を抱えて、会議室のテーブルに顔を伏せたロンバート子爵親子は、容姿だけでなくその動作までよく似ていた。

 

「ナンシーは私が他所の女性に心奪われていると思いながら死んだのか? 私が彼女を裏切っていると?

 嘘だろう?」

 

「母上……」

 

 絶望した二人の姿にマッケイン伯爵が動揺して、救いをも求めるように私を見た。 

 えっ? 私にだって無理だ! 慰める方法なんてあるわけないじゃないか、夫人はすでに亡くなってしまっていないのだから。

 そう口には出さなかったが、私は思わず彼を睨み付けてしまった。

 すると、彼は慌ててこう怒鳴った。

 

「全てはその君の上司だった男が悪い。俺がそんなやつ、絶対にこらしめてやる! 名前を教えろ!」

 

 すると、ロンバート子爵は俯いたまま呟いた。

 

「ありがとう。しかし、すでに仕返しをしているから大丈夫だ」

 

 そういえば、ロンバート子爵が突如頭角を表したのは、夫人が亡くなった後だったと聞いている。

 たしか当時議会内で大きな不正事件があって、その犯人を暴き、事件を解決するのに尽力し、その能力の高さを周囲に見せしめた結果だったと。

 それって、あの前代未聞の収賄事件のことだったのか。勉強不足だった。

 

 ナンシー夫人が亡くなった後、ロンバート子爵は毎日飲み歩いてほとんど家に帰ってこなかったとディアナは言っていた。

 しかし実際は妻を亡くした悲しみだけではなく、上司に対する憎しみの念で、必死に事件解決に邁進していたのだろう。

 そして見事事件を解決して己の力を示したことで、かつての上司より出世して、その無念を晴らしたのだろう。

 その男に何をしたのは定かではないが。

 しかし今回子爵が夫人の思いを改めて知ったことで、その男が彼の恨みをさらに買ったことは間違いないだろう。



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