第46章 誤解とすれ違い1
「お辛いことをお聞きしますが、ご夫人が亡くなられたあの日、何故レイクレス伯爵家のパーティーに主席されたのですか?
貴方はそれまでは何かと理由をつけて、あの家の催し物には参加をされてはいませんでしたよね?」
私の問にロンバート子爵は青い顔のまま頷いた。
愛する妻が心を病んでいたかもしれないのに、それを人に指摘されるまで気付けなかった。そのことに、彼はかなりショックを受けている様子だった。
その上さらに追い打ちをかけるように、そんな状態だった妻を何故無理やりに参加させたのか、その理由を訊ねられたのだから。
それでも、今日ここに来るまでに、彼はすでに色々と覚悟を決めていたらしく、躊躇うことなく話し出した。
「妻が亡くなった年ですから、もう九年前になるでしょうか。
貴族議員による大掛かりな収賄事件があったことはご存知ですか?
まだジルスチュワート卿は学園に入学する前のとだったとは思いますが」
私は頷いた。
しかし、私はあの年はちょうど心を病んで領地で静養していた時期だったので、実際にその事件の概要を知ったのは、それから数年後の学園の授業の時だった。
「その事件が起きる数年前から、通って当然だと思っていた法案が否決されたと思ったら、通すべきではない悪法が議決されていて、これはおかしいと議会関係者は皆そう感じていたのです。
しかし、その採決に賛同する者と反対する者は毎回違っていて、どの議員とどの議員がどのように結託しているのかがさっぱりわかりませんでした。
その一つ一つの法案で益を得られる人間が誰なのかは絞れても、その者達とどの議員が繋がっているのか、それがはっきりしなかったせいもありました。
そこで、議会職員が一致団結して総力を上げて、不正撲滅のために調査しようということになったのです。
そのために、疑惑のある人物の夜会などにはできるだけ参加して、人間関係を探ることになったのです。
しかしその際探っていると思われないために、パートナーとの参加を強要されたのです。
例えば妻や婚約者、そうでなければ家族を一緒に連れて行くようにと。
私は上司に、近ごろ妻の体調が悪いので、一人で参加させて欲しいと願い出たのです。
すると、それなら子供を連れて行けと言われてしまいました。
子供達を夜会に参加させるなんてとんでもないと言ったら、それなら親類でもいいからパートナーになってもらえばいいじゃないかと言われてしまいました。
しかし私には親類の中には、パートナーに相応しいと思える女性がいませんでした。
かなり血筋が遠ければいましたが、そういう者達は日頃から私と関係を持ちたがっていたので、接触したくはありませんでした。
私は八方塞がりになりました。それで仕方なく、妻に夜会の参加を求めたのです」
「実質内偵のようなものだったのでは、そのことを奥方に話せなくて、君も辛かっただろうな。
それにしても、騎士団や情報部でもないのに、普通そこまで職員に強要するものなのか?」
第三騎士団長であるマッケイン伯爵の言葉に私も激しく同意した。
するとロンバート子爵はその美し過ぎる顔を歪ませて、苦々しそうな声でこう吐き捨てた。
「その疑問は事件解決後にわかりましたよ。
その上司は単に自分の立身出世のために、大きな手柄をたてたくて部下に命じたのだということが。つまり越権行為だったのです」
やっぱりなと、私とマッケイン伯爵は顔を見合わせて思った。
「レイクレス伯爵家の夜会が開かれたあの日、私はその上司に言われたのです。
今度単身で参加したら地方へ飛ばしてやると。
妻のナンシーは家を出る直前になって吐き気や目眩を起こして、それまでに何回か夜会に参加できなかったことがあるので、それを快く思っていなかったのでしょう。
その理由はその都度きちんと説明してきたというのに。
せっかく長年の借金が返済し終えたところなのに、二重生活になったらさぞかし物入りになるだろうなって、意地悪そうに笑っていましたよ、その男は。
正義のためだと鼓舞して、周りの者を巻き込んで起きながら、実際はそんな卑劣な人間だったのです」




