ep. 36 新しいスキル?!
──あたたかい。
頬を撫でる、どこか懐かしい木漏れ日のような温もり。意識の底からゆっくりと浮上しながら、俺は重い瞼をどうにか持ち上げた。
視界がぼんやりと光を結んでいく。
真っ白だった心層世界の残影が消え、最初に映り込んだのは──
「うわっ……!?」
目の前、ほんの僅かな距離にあったのはリノの顔面だった。あまりの近さに慌てて驚き、勢いよく上体を起こした、その瞬間。
ゴッ、という鈍い衝撃音が空間に響き渡った。
「いったあああぁぁぁぁっ!?」
俺は額を押さえてゴロゴロと地面を転がり、悶絶した。人間の頭の硬さじゃない。まるで鍛え上げられた鉄塊に頭突きをかましたかのような衝撃だった。頭割れたかと思ったぞ。
「おぬし、大丈夫か?」
当のリノはと言えば、全くダメージを受けていない様子で不思議そうに俺を見下ろしている。さすがに防御力の桁が違うな……。
「……無事でよかった」
リノの影から滑り込むようにして、クルエラがそっと俺に寄り添ってくる。
「なんだかすごい事になってるわねぇ」
涙目で悶える俺を見て、クスリと笑ったのはヴェルだった。
三者三様の反応を横目に、俺は頭の痛みを堪えながら、ふと周りに意識を向けた。
──そして、息を呑んだ。
あたり一面、見渡す限りの焼け野原だった。鬱蒼としていたはずの森は跡形もなく、ただ黒い灰が風に舞っている。
それだけじゃない。戦場の一部には土が超高熱でドロドロに融け、まるで結晶化したかのようなとんでもない状態の地面がある。
「なんだこれ……」
焼き焦げた凄まじい跡から察するに、やっぱりあの魔王ヴルクラッドとかいう奴の仕業なんだろうか。でも、激しい焦土の中心には不自然に溶け残ったあの炎剣の残骸みたいなものが虚しく転がっている。
あいつは一体どこへ行ったんだ? まさか、俺が気を失っている間に誰かが倒したのか……?よくわからない。
……それに、もう1つだけ気になることがある。あの真っ白な世界のことだ。
まるで現実から切り離されたかのような、静寂に満ちたあの空間。死の直前、走馬灯の代わりに脳が見せた幻覚にしては、肌に触れる空気の冷たさも、交わした言葉も、あまりにリアルだった。
ふと、あの心層世界での出来事を思い出す。
胸を指差して『一つ貸しね?』と言い残した赤髪ツインテールの少女。
『ボクの眼、便利でしょ』と微笑んでいた茶髪の少年。
一体、俺の体に何が起きたんだ?何かスキルに変化でも起きたのだろうか。
それを確かめるべく、俺は目を閉じ、脳内で自身の進化したユニークスキル、【天再葬蘇】の感覚に意識を集中させてみる。
いつも通り脳内でスキルのイメージを深く手繰り寄せようとした、その時だった。
──な、んだこれ……?
脳裏の暗闇に、突如として見知らぬ二つの感覚がパッと火を灯すように割り込んできた。
一つは、禍々しい炎の熱を孕んだ──【残火の虞】
もう一つは、視界のすべてを縛り付けるような鋭い感覚──【抑縛眼】
その名前と使い道が、回路を開かれたように本能的に脳内へと流れ込んでくる。
「……スキル、なのか……? なんで急に……」
思わず呆然と呟いてしまう。突如として現れた新しい二つの力。
──いや、待て。炎と、眼……?
『一つ貸しね?』
『ボクの眼、便利でしょ』
脳裏をよぎる、あの真っ白な空間での二人の言葉。もしかして、この新しい力はあいつらと何か関係があるのだろうか。あの不思議な空間といい、あの二人の正体といい、謎は深まるばかりだけど……今はただ、ぼんやりとそんな予感だけが胸に残っていた。
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