閑話 双炎神話
これは神代の昔に起こったとされる、双炎の神々の物語である。
世界がまだ幼く、昼と夜の境さえ曖昧だった頃。
天上には二柱の炎の女神がいた。
姉は紅炎を司る神、アリシア。
妹は蒼炎を司る神、ルクシア。
双子として生まれながら、その気質はあまりにも違っていた。
姉の炎は激しく、荒々しく、万物を呑み込む力を持っていた。
妹の炎は静かで冷たく、穢れを焼き払い清める力を持っていた。
二柱は同じ炎を司りながら、決して互いを理解することができなかったという。
そしてある日。
長く積み重なった不満はついに爆発した。
神々の喧嘩は瞬く間に戦争へと変わり、紅炎と蒼炎が天を裂いた。
姉神が放つ紅蓮の業火は海を蒸発させ、
妹神が放つ蒼き神炎は空を焼いた。
山は熔け、
大地は割れ、
終わらない昼が始まったという。
世界は滅びの淵へと追いやられた。
もはや誰にも止められない。
そう神々が絶望した時、一柱の神が立ち上がった。
維持と均衡を司る神ウォーシェルである。
ウォーシェルは二柱の神炎の狭間へ降り立つと、その身で紅炎と蒼炎を受け止めた。
そしてこう告げたという。
『汝らの炎は滅ぼすためのものではない。照らすためのものだ』
その言葉を聞いた姉妹はようやく怒りを鎮め、炎を収めた。
こうして世界は救われた。
だが神々の炎は完全には消えなかったという。
戦いの名残は世界のどこかに消え、残火となって今なお燃え続けている。
火山の底で。
深海の闇で。
人の辿り着けぬ秘境で。
天空のどこかで。
紅と蒼の神炎は眠ることなく揺らめいているという。
そして古き預言は今もなお語り継がれている。
『双炎が再び一つとなる時、世界は滅びか、あるいは新たに生まれ変わるだろう』──と。




