ep.32 炎の魔族
王都ギルドの広間は、復興に向けた打ち合わせと憶測で渦巻いていた。
中でも話題の中心はさっきまで降り注いでいたあの光だ。
「神の奇跡だってよ」
「いや、精霊王の加護じゃないか?」
「いやいや、あれは伝説の──」
憶測が憶測を呼び、酒場の酔っ払いみたいな熱量で続いている。放っておいたら百年後には神話の一節として語られていそうな勢いだった。
そんな中──。
「リノー!よちよち!元気にしてたぁ?」
鐘楼で見せた妖艶さなど欠片もなく、ヴェルがリノを捕まえて抱き寄せた。黒の薄衣がひらりと揺れ、角と翼が小刻みに動く。悪魔の存在は目立ちそうではあるが、「騒ぎになるのも嫌だから魔術を使っておくわぁ」というヴェルの発言と周りの反応の無さを見るに大丈夫なのだろう。
「やめるのじゃー!わしゃわしゃやめるのじゃー!」
必死に抵抗するリノを完全に無視し、ヴェルは更に頬ずりを始めた。
見かねたクルエラが半歩前に出る。
「ヴェル、久し……」
「クルエラー!会いたかったわー!」
彼女の言葉を遮るように、今度はその豊満な胸でクルエラの顔を包み込む。潰されているはずのクルエラの表情は、相変わらず微動だにしていない。
周囲の冒険者たちが何事かと遠巻きにこちらを見ていた。
「はいはい、感動の再会はそこまでにして、とりあえず俺の話を聞いてくれ」
色々と積もる話もあるだろうけど、自分たちの状況よりもまずは王都の状況を整理しなければならない。
──王都は今、混乱を極めている。比較的軽傷な者から順に街の復旧や負傷者の手当てへ回るよう、ギルドマスターが矢継ぎ早に指示を飛ばしている状況だ。
俺たちもそれに従い、各々の役割を決めていく。
クルエラは止血や応急処置、リノは瓦礫の除去や道路の修繕、ヴェルは壊れた建物を瞬時に修復できるということでそこに力を貸してもらうことになった。
無言・小言・退屈、三者三様の反応を見せながらも三人は王都の復興に協力してくれている。俺は負傷者を担いで教会に運ぶ係だ。
ギルド付近の区画を担当していたが、ある程度救助を終えると南門区画の人手が不足しているとしてそちらへ呼ばれた。三人から目を離すのは少し不安だったが、クルエラがいるから大丈夫だろうと呑気な思考に切り替え、助っ人に向かう。
「ふぅ、流石に骨が折れるな……」
スタンピードの被害は王都の外にまで広く及んでいた。馬車や魔導車両に負傷者を乗せながら、ひっきりなしに王都へと送り出していく。Bランクだからと、ついには<死の森>の中にまで入り込まされる始末だ。
「よし、これで最後の一人だな……」
ようやく最後の負傷者を馬車に乗せ、一息ついた。手持ちの水筒で水分を補給しつつ、辺りを見渡す。相変わらずここの森は暗い雰囲気だ。ジメジメしてるし、時折変な魔物のうめき声が聞こえる。早いとこ王都に戻るか。遠目に先行する救助隊の姿を視界に入れ、重い腰をあげた。
その時だった──。
ざわりと、全身を鋭い悪寒が駆け抜けた。
森の鳥たちが一斉に羽ばたき、空へと逃げていく。
……なんだ、この感じ。
背後から肌を焼くような熱波が弾けた。
振り返らなくても分かる。こいつはやばい。
呼吸を整え、ゆっくりと後ろに振り向いた。
そこに立っていたのは一人の男。
真紅の赤髪と、血のように深い赤眼。青白く彫りの深い顔立ちに、炎のような逞しい顎ヒゲ。見慣れぬ民族衣装のような服を纏い、右手には燃え盛る剣を握っている。
全身から噴き上がる魔力は、その体躯と同じように猛々しくゆらめいていた。
まるで答え合わせをするかのように、今はっきりと理解した。
──こいつが炎の模様の元凶だ。トマソンさんが言っていた魔族だ。
「一体どういう術を使ったのか知らねぇが、おもしれぇことになってんじゃねぇか!あァ?!っンだよあの光の雨は!」
男は苛立ちを隠せないといった様子で唾を吐く。炎の魔力はより一層熱と輝きを増していた。
「もうめんどくせぇことはやめだ。俺が直々に王都を陥落させる」
燃え盛る切っ先が俺を射抜く──。
「おい雑魚。まずはてめぇからだ」
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