人材派遣会社『竜の息吹』
人材派遣会社『竜の息吹』のビルの中にぞろぞろ入ってきた俺たちを見て、受付にいた可愛い女の子がムサシに声をかけた。
「おや!?ムサシさん、おかえりなさい、お早いお帰りですね?……後ろの人たちは?」
「ただいま、セリーヌ。新顔だ、大白虎はちょうどこの人たちが倒していたんだ」
「ほほう……新顔でいきなり大白虎をですか?なかなかのものですね」
セリーヌが品定めをするようにガウスたちを見てくる。
ほめてもらえたようでちょっといい気分になる。
セリーヌは何かの道具に小声でしゃべっていたかと思うと言った。
「社長がお会いになります。5階でお待ちになっているのでどうぞ」
ん?誰と話していたんだ?と思いながらムサシたちの後をついて進んでいった。
いきなり正面の扉が開いた。
中は小部屋になっている、その中にムサシたちが入っていく。
俺たち三人はその前で立ち止まった。
「このせまい部屋の中に入るのか?」
「そうだ。……初めてだから妙に思うのかもしれないが、すぐ慣れる。これはエレベーターというもんだ」
ムサシとリリスはニヤニヤしてこちらを見ている。
癪にさわるので俺たちも入ると、上に昇っているような感覚がする。
これは何かの魔術なんだろうか?
しばらくたつと入ってきた扉が開いてムサシたちが出ていったので、俺たちもついていった。
扉から出て少し進むとまた大きな扉がある。
ムサシがノックをした。
「ムサシです」
「入りたまえ」
部屋の正面には大きな机があり眼光鋭いガタイのいい大男がこちらを見つめている。
その横には眼鏡をかけた女性が立っていた。
「ランス社長、ただいま戻りました!まず、報告を……」
ムサシがこちらをチラチラ見ながら報告をしている。
ひととおり報告が終わったらしくランスが話しかけてきた。
「ようこそ『竜の息吹』に!私はこの会社の社長のランス=ルーディンだ、君たちはこの世界にきたばかりということでいいのかな?」
「その通りです」
「いきなり異世界に来て驚いただろうな……この会社のほとんどは異世界から来たものばかりだ。まあ、そういう人材を集めたとも言えるがな。そこで提案なのだが、君たちもここで働かないかね?」
「いきなり言われてもなんとも……どんな仕事ですか?俺たちが役に立つかどうかもわからないんじゃないですか?」
「大白虎を倒せるなら少なくとも役立たずなことはない。それにこの世界に慣れてから、ここをやめたいと思ったらいつやめてもいい……できれば、長く勤めて欲しいがね。仕事は依頼を受けての、討伐、探索、護衛……等、多岐にわたる」
「ちょっと相談してもいいですか?」
「もちろんだ、部屋の外ででも相談したまえ」
うーん、冒険者みたいなものか?
俺たちは部屋の外に出て相談した。
「どうする?俺は悪くない話だと思うが?」
「いいぜ!やってやろうぜ!」
「……とりあえずはしょうがないわよね。何もわからないんだから。戻れるものなら戻りたいけど……」
こうして俺たち三人は人材派遣会社『竜の息吹』の一員になった。
社長ランスが俺たちを見て言った。
「さて、まずはお前たちの力を見るために簡単な試験をさせてもらう、それから研修だ!」
「俺たちは研修など受けなくても一人前に戦えると思いますが……」
「ふはは、それは甘い……うちの会社が最近のし上がってこれたのは研修のおかげであると俺は考えている。よほど、試験の結果が良くない限り研修は受けてもらうぞ!」
「わかりましたよ、それで試験というのは?」
「そうだな……お前たち三人対ムサシ、ハルクの二人で模擬戦をやってもらおう、あとムサシはサイレントなしで」
むむっ……サイレントというのはあの音が消えてしまう魔術だろう、それなしの上に3対2?結構なめられているのを感じる。
俺たちの力を見せてやる!
俺たちは『模擬戦闘室』という部屋に連れていかれた、部屋の中でやるのか?
部屋の扉を閉めると景色が急に変わり、目の前に草原が広がっていた。
どうなっているんだ!?
「質問は後だ、さて始めるとするか?」
「……」
ムサシが剣を構えている。
ハルクは黙って俺たちを見ている。
俺たちは顔を見合わせてうなずいた。
俺はすぐに呪文の詠唱を始める。
カストロがハルクに向かって突っ込んでいくがハルクの剣をなんと素手で受け止められている。
身体を硬化しているのだろうか?
サラは俺の前で結界を張り、ムサシを牽制している。
俺は中級の炎魔術をムサシに向かって唱える。
中級だが魔力が強大な俺の場合、威力は最上級に匹敵する。
「くらえ!フレイムアロー!」
「甘い!」
巨大な炎の矢がムサシの前に迫るが鞘から刀を一閃すると炎の矢が真っ二つになった。
そのままムサシが走ってくる。
サラが間に入り防御結界を張り、さらに結界を変形させムサシの動きを妨害する。
「おおおっ!?おもしろいことするな、だが甘い!喝っ!」
「えっ!?」
サラの目には急に目の前にムサシが現れて自分を斬ったように見えた。
実際にはかなり離れた位置にムサシがいたにもかかわらず、サラはくずおれて気を失ってしまった。
それを見たカストロはハルクの腕を受けた盾に力をこめた。
「衝波!」
衝撃波でハルクをふっとばす、威力は高くないが盾で守りながら攻撃できるので汎用性の高い技である。
さらにハルクの方に盾を向けて言った。
「インビジブルシールド・アサルト!」
透明な大きな壁がゆっくりハルクの方に進む。
それに気がつかないハルクは顔を壁にぶつけてひっくり返る。
「痛たっ!なんだ?」
その間にカストロはムサシの方に走っていく……後ろでバキッという音がした、と思うと背後から巨大な岩が飛んできてカストロの背中にぶつかって、倒れてしまった。
ハルクが透明な壁を一撃で壊し、目の前に岩を作り出したかと思うとそれを投げつけたのだった。
「くっ!ウインドカッター!」
二人が倒されたのを見てあわてた俺は長い詠唱を必要としない初級の呪文を連発するが、すべてムサシにかわされていた。
初級とはいえ威力はかなりのものなのだが。
すべて簡単にかわされる。
目の前にきたムサシが言った。
「これで詰みだ!」
衝撃を受け目の前が暗くなっていく。
こうして俺は自信を粉々に砕かれたのだった。




