復習するは我にあり
智子ちゃんから麻美が殺されたかもしれないと言う話を聞いた俺は、探偵をやっている友人、田口に相談して見ることにした。探偵と言うと大げさだが、興信所を個人で経営していると言うことである。
智子ちゃんの話だと、道路脇を歩いていた麻美を誰かが突き飛ばしたらしい。警察でいくらその話をしても何故か信じてもらえず、どうやら調書にも記録されていないらしい。そう行ったことも含めて、全てを田口に話した。
「ふうむ、もしそれが本当なら俺には荷が重いかもしれないな。お前もこの件には出来るだけ触れない方がいいだろう」そう田口は言った。
「なんだと、俺に諦めて何もするなって言うのか」俺がそう言うと
「お前の為に言ってるわけじゃない。麻美ちゃんの友人、智子ちゃんって言ったかな。お前が騒ぐとその子に飛び火するぞ」
「……」
「その子、警察で証言したと言っていたな。もしかすると既に手遅れかもしれないが、ひとまず俺に出来る限りの事はする。お前は、その智子ちゃんについていてやれ」
「…わかったよ」
「俺には荷が重いと言ったが、こう言う荒事に慣れているやつを知っている。そいつに連絡しておいてやるから、それまでは大人しくしていろ」田口はそう言うと俺に一枚の名刺を渡した。名刺には毒島啓太という名と電話番号しか書かれていない。毒島啓太、おそらく偽名だろう。
「そいつの連絡先だ。万一の為に渡しておく。だが、お前からは余程のことがない限り連絡するな。わかったな」
俺は頷いた。
その後、田口と別れた俺は智子ちゃんの家に向かおうとして、今日が平日であることを思い出した。高校生の彼女は学校にいる時間だ。まさか、学校にいる生徒に何かする事は出来ないだろうと思い、一旦自宅に戻ることにした。
家に戻ると、電話が鳴った。家に電話が来ることは珍しい。知り合いなら直接携帯にかけてくるからだ。
「はい、冬月です」俺が電話に出ると。
「毒島だ」妙に不自然な低い声がした。多分ボイスチェンジャーを通しているのだろう。田口から連絡を受けたのだろうが異様に連絡が来るのが早い。
「田口から依頼を受けた。話がしたいので蒲田に来てくれ」
「蒲田のどこに行けばいい?」
「蒲田に来ればいい。俺の方から見つける」そう言うと電話が切れた。
指示通り蒲田に向かえばいいのだろうが、俺はわざと違う方向に向かった。
蒲田ではなく横浜行きの電車に乗ろうとすると、携帯が鳴った。
「何故違う方向に向かう?」
電話に出るとさっきと同じ不自然な低い声で語りかけてくる。やっぱりな、俺のカンは当たったようだ。
「あんた、近くにいるんだろう。めんどくさい事はやめようぜ」
「何故わかった」俺の後ろから声がした。さっきの低い声ではなく、女性の声だ。
「女だったのか、流石にそこまでは分からなかった」そう言って振り向こうとしたが
「振り向くな」首筋に何か冷たいものが当てられたので俺は振り向くのをやめた。
「いや、だってバレバレじゃん。俺が家に帰ってきたちょうどのタイミングで電話かけてくるし、言ったのと違う方向の電車に乗ろうとしたら、すぐ電話かけてくるんだから。近くにいるんだなあ、ってわかるよ」
「ふむ、なるほど。仕方ない。不本意だが話はここで聞くとしよう」
「田口から話は聞いているんだろう?」
「直接聞かないと分からない事もある。声は思い切り落としてもいいぞ」そこで俺は首筋に当てられているのがナイフではなくマイクである事に気がついた。後ろを振り向くと既に彼女の姿はなかった。
「それで、相手はアーケロンで間違い無いのか?」マイクだと思ったが、骨伝導スピーカーでもあるらしい。
「ああそうだ。アルバイトとして向かった初日にいきなり事故にあった」
「初日に?余程早急に献体が必要だったのか」
「ちょっと待て、献体ってのはどう言う事だ」
「知らなかったのか。口が滑った。それなら知らない方がいい」
「そう言うわけにはいかない」そう言うと相手は少し躊躇していたが、結局は話してくれた。
「アーケロンの保険を受けるための書類にサインしたと思うが、その中に臓器移植許可の項目があったはずだ。もし不幸があった場合、彼女の臓器を他の人に移植することを許可するものだ。」
「ああ」
「あれは臓器の移植だけでなく、研究の為臓器を使う許可も含まれている。そしてその臓器には脳も含まれている」
「麻美の体は人体実験に使われたと言うのか。人権侵害だぞ」
「体ではない、脳だ。そして死体には人権はない。グレーではあるが違法ではない。アーケロンでは最近このような事件が頻繁に起こっている。被害者は貴方の妹だけじゃない」
「一体奴らは、何をやっているんだ」
「判らない。それをこれから調べる」
その時俺の携帯が鳴った。
「はい冬月です」
「私、アーケルン第三課室長 大倉智樹と申します」




