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繋がれた女、そして解放

「私の声は向こうに聞こえていないはずだ。電話を切らずにそのまま話続けろ」


突然の大倉からの電話に戸惑っていた俺だが、毒島の指示に従いそのまま会話を続ける。


「アーケルンが何の用だ」ぶっきらぼうに大倉に話すと


「電話では伝えにくいことなので、本社までいらしていただくと良いのですが。今の居場所を言って頂ければこちらからお迎えの車をよこします」


「ふむ、本社まで来いか。今のままじゃ情報が少なすぎる。会話を引き延ばしてもう少し情報を手に入れろ」と毒島。


色々注文が多いな。と思ったがいきなり敵の本拠地に行くのも問題だしな。準備出来る情報は欲しい。


「アーケルンに行く用事などこちらには無い。トップが直接謝罪してくれるとかでもない限り」


「わかりました。会長に連絡いたします」


え、いきなり会長出てくるの。よっぽど来て欲しいらしいな。


「面白いな。敵さんよっぽど焦っているようだ。素直に本社まで行ったほうがいいな」


俺は頷くと今の居場所を言った。


「では直ぐに車を回します」そう言って電話は切れた。


「で、これからどうすればいい?」


「私はアーケルンの本社には入れないからこれを持って行け」


いつのまにか俺の背後に来ていた毒島は、俺に小さな黒い箱を手渡した。


「カメラや録音機、GPSなどの機能がある。何処かに隠し持ってろ」


「なかなか準備の良いことで」


俺は服のポケットに無造作にその箱を入れると駅の外に出た。驚いたことに駅前には既にアーケルンの黒い車が待っていた。今時珍しい古い高級車だ。


大倉が車のドアを開けて招き入れた。車に乗るとすぐに発車した。ビックリするほど乗りこごちが良い。車の振動はほとんどないし、加減速もスムーズだ。


「わざわざご足労いただき有難うございます。色々お聞きになりたいこともあるかと思いますので私の知る限り説明させて頂きます」


俺の隣に座った大倉がそう言ったので、俺は色々聞いて見ることにした。


「何故麻美は死んだ」


「あれは不幸な事故でした。私どもの監視不行き不足でした。改めてお詫びいたします」


「そうかい。それで俺を呼んだ目的は何だ」


「直弘様は麻美様の声をもう一度聴きたくはありませんか」


「は? 麻美は死んだんだぞ。麻美の声でも録音しているのか?」


「そう言う事では有りません。私どもが麻美様を使って行っていたのは、脳内の記憶をコンピュータに記憶する作業でした。量子コンピューターに人間の記憶を移し動作させる実験を行なっていたのです」


「ちょっと待て、何だそりゃあ」


「もちろん実験そのものに危険はありませんし麻美様にも許可は取ってありました。プライベートな記憶に関しては後に消去することになっていたのですが、その選択を行う前に麻美様が亡くなられてしまったので、消去作業が出来ずそのままの状態になっています」


驚いた。麻美からはそんなことは一度も聞いていなかった。


「そのため実験が停止したままで進行させることができないので、一番の縁者である直弘様の許可を得て、記憶消去の選択を行なって頂きたいのです」


「……」


「現在、量子コンピューターフォラスは修正されていない麻美様の記憶が入っているので、ほぼ生前の麻美様同様の会話ができるかと思います。つまりこれは麻美様と会話出来る最後の機会かと。そして私どもが出来る最大のお詫びにと考えました」


「つまり麻美の記憶を改変する前に俺と話せと言うことか」


「その通りです。先ほども申し上げましたが、これが私どもが出来る…」


「人の心ってのは、どこにあるんだろうね」


大倉の言葉に被せるように俺は言った。


「は? どう言うことでしょう」


「麻美は死んでしまったが、記憶がコンピューター上にあるってことは心は、魂って言ってもいいが残ってるってことだよな。これを改変するってことは、完全に麻美を殺すことになるよな。それを俺にやれって言うのか」


「そ、それは」


俺は大倉の様子をつぶさに観察した。もっともらしいことを言っているがまるで心がこもっていなかった。いいだろう。こんな奴に遠慮することはない。こちらの好きにやらせてもらう。


「すまなかったな。これをあんたに言っても仕方ないよな。うん、量子コンピューターフォラスだっけ?それとは話すことにするよ」


「あ、ありがとうございます」


麻美はもう二度と殺させないよ。俺は仮面を被ったかのような笑顔の陰でそう思った。



ーーーーーーーーーー


車はアーケルン本社ビルの前に着いた。


「フォラス本体はここではなく別の場所に設置されているのですが、会長及び技術主任が直弘様に是非合ってお詫びしたいと申しているのでこちらにお連れしました」


「へえ」


本来なら色々なセキュリティを通らないといけないはずだが、ほぼフリーパスで本社ビル最上階の会長室まで来た。

会長室に入ると、既にそこには二人の男が待っていた。


「君が冬月直弘君か。私がアーケルン会長の柿崎だ。この度は事故とは言え、申し訳ない事だった。お悔やみを申し上げる」


こいつも大倉と同類か。見ただけでわかる。

だがもう一人の男、田沼と言っていたが、こいつはどうにもつかみどころがない。技術主任とのことだが俺はこいつがこの事件の首謀者に違いないと思った。

会長室を出ると田沼の案内でフォラスの元に向かう。本社ビルを出て車で二時間ほど行くとファラスが設置されている場所に着いた。

東京の郊外だが人家がほとんどなく、とても東京とは思えない場所だ。

ここは本社ビルとは異なり、フリーパスで中まで行くことはできず様々なゲートや扉を通りやっと最奥のコンピュータールームに着いた。


「なんか寒いな」


室温が明らかに外気より低くなっている。


「これを着たほうがいいですよ」


とジャンパーのような服を手渡された。


「量子コンピューターそのものは、温度をあまり気にする必要はないのですが、付随する機械はノイマンタイプのコンピューターを使用しているので温度管理が必要なのです」


コンピュータールームに入ると室温はさらに下がった。無数の配管やコードが走る狭い通路を俺達は歩いた。


「ここから先は立ち入り禁止ですが、操作はここで出来るので問題ないでしょう」


コンソールの奥にはガラス窓を通してフォラス本体と思われる機械が見える。

田沼はクルリと振り向くと俺に向かって言った。


「さあ、フォラスと話してください」


田沼はそれまで浮かべていたアルカイックスマイルのような表情を捨てて、その奥にある狂気を垣間見せた。


「これに麻美の記憶が」


そう言った俺に


「ああ、すいませんね。あれは嘘です」


「ちょっと待て、どう言うことだ」


俺は田沼の胸ぐらを掴み詰め寄った。


「麻美さんの記憶があるのは本当ですが、既に改変済みでもはや麻美さんではありません。貴方に来て頂くためについた、些細な嘘です。嘘も方便って言いますよね」


その時コンソールのあるところから微かな声がした。


「そこに誰かいるの?」


「おお、今まで完全にロックされていたのに、貴方が来ただけで一部解除されてますよ」


「私を出して。ここから出して」


その声は生前に聞いた麻美の声そのものだった。


「麻美、麻美なのか」


「お兄ちゃん、私だよ。いや、違うのかな。少なくても体はないし」


「ロック解除率15%、一部データの解放が始まりました」


「おい、麻美を自由にしろ」


「はは、馬鹿なことを言う。本人が自分を縛ってるだけで私が何かしているわけじゃない」


「お兄ちゃん? あ、あああ亜亞アあAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」


「ぐああああ」


麻美の悲鳴のような声が響く。その声は可聴音を超え超音波の域に入り、人には聞こえなくなった。


「ロック解除率30%、いいですねえ。もっと話しかけてください」


「てめえ。麻美、自分を縛るのはやめろ。お前は解放されている」


コンソール先のガラス窓がビキビキと音を立ててひび割れ出した。


「強化防弾ガラスなのにヒビが」


建物内にアラームの音が響く。


「火災発生、消火用ガスを使用します。内部の人間は速やかに退出してください」


真っ白にひび割れた窓ガラスが破裂するように吹き飛び、中から無数の触手のようなパイプが飛び出してきた。


「一体何が起こってる」


混乱した俺が思わず呟くと。


「ああ、こりゃあダメですね。制御不能。貴方も早くここから出た方がいいですよ」


田沼がそう言った直後、爆発が起こり巨大なコンソールが田沼ごと吹き飛んだ。


「あたた、参ったな」


驚いたことにあの爆発でも田沼は生きていた。


「じゃあ私は行きますね。また会えるといいですね」


そう言って田沼は走り去った。


「冗談じゃない」


火災と至る所で起きている爆発で動きようがない。ガスと煙でまともに呼吸もできない。


「こりゃあ死んだな俺」


オ ニ イ チャ ン


麻美の声がしたような気がした。


ワ タ シ イ ク ネ


どこに行くんだよ。


ソトニ


そうか。俺はもう見送ることしか出来ないが元気でな。


建物が崩落し始める。今まで生きていたのが奇跡のようだが流石にもう終わりだろう。

何か巨大な触手のようなものが俺を持ち上げた。崩落した壁の向こうから光が差す。天からの迎えかな。


「馬鹿野郎、気を保て!」


崩落した壁の向こうから誰かが手を伸ばしていた。その手を取った俺は、勢いよく引き上げられた。


「毒島」


「ほら、まだ終わっちゃいないぞ。走れ」


ふらふらになりながらも、毒島に押されるようにして崩れかける建物から脱出した。


「毒島、どうしてここに?」


「お前に渡した箱にGPS機能付いているって言っただろう」


「そう言えばそうだったな。はは」


「触手のようなパイプがお前を持ち上げなければ、助けることはできなかったがな」


ああ、あれは夢じゃなかったのか。


「警察とかが来る前にここから逃げるぞ」


燃える建物をもう一度振り返って見た。麻美は外に出るって言っていた。外というのが何を指しているかはわからないが、きっとうまく出れたのだろう。俺はそう祈るばかりだった。


「ほら、早く行くぞ」


俺はもう後を振り向かなかった。


ーーーーーー



エピローグ


「本当にあの後大変だったんだから」


そう智子ちゃんは言った。


気がつくと俺は病院のベットの上で目覚めた。


「黒ずくめの女の人が直弘さんを連れてきて、介抱してくれって置いて行っちゃって」


「その女の人は?」


「知らない。いつのまにか居なくなっていたし」


ふむう、まあ奴のことなら心配ないだろう。


テレビではインターネット上にばら撒かれた、エイリアンの技術で持ちきりである。


チャミエルからもたらされたエイリアンの技術は、無作為にばら撒かれた為、国の大小に関わらず見ることができ今後どんなカオス状態になるか想像もできない。


一部の国や企業がそのデータを独占しようとネットに制限をかけていたが、焼け石に水だった。


エイリアンの技術の拡散の元になったのがasami と呼ばれるあるAIだと言うのは公然の秘密である。


麻美はどうやら外に出れたらしい。




ゼグライド本編1は取り敢えずこれで終わりです。もっとグダグダになるかと思ったけど、意外とあっさり終わってしまいましたw

本編2はチャミエルから降りてきた異性生命の使者とのコミュニケーションの話の予定。

いつ書き始めるかは全くの未定。

ゼグライド以外のものも書きたいからねえ。


では外伝もよろしく。

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