プロジェクトレポートNo.356
被験者No.0237 A.T
grr値 35.7
atp値 457
総合ruin 562i
.
.
.
適合値89.3
現状において最も高い適合値を記録。
規格に対し24%の不足のためロト6を使用。
規格値に達したため量子コンピュータフォラスとの接続を許可。
XXXX/XX/XXに処置完了。
RNXとの接続を行う。
アシュケルン反応の持続を確認したが適合値のふらつきが出たため、ロト6の投与量を15%増加する。
36時間経過。特に変化が見られないため投与量を更に10%増加。
安定したため実験の継続。
.
.
.
No.0189の実験によるアシュケロン反応の持続時間の低下はNo.0237においては見られない。
No.0189の実験の失敗はα波の切断によるもののため、慎重を期し経過観測を続ける。
反応の安定を確認。
.
.
.
XXXX/XX/XX α波による交信実験を許可。
XXXX/XX/XX 外部メモリとの接続、実験開始。
.
.
.
XXXX/XX/XX 接続成功。381ペタバイトの情報の転送を確認後、通信遮断。
通信遮断の原因は、短時間に高負荷がかかったことにより被験者の脳が回復不可能な損傷を起こしたためだと思われる。
通信遮断後、メモリにロックがかかりアクセス不可となる。
アクセス不可の原因ついては現在調査中。
XXXX/XX/XX 田沼清十郎
追記
アクセス不可の原因について不確かな情報を書くべきではないが、あくまでも私の見解としてここに書き留める。
人間と量子コンピュータフォラスとの接続は今回の実験が最長であり、長時間接続によるフォラスに対する影響はまだよくわかっていない。しかし人間の脳に匹敵する複雑さを持つフォラスは繋がれた被験者と何らかのシンパシーを持ち、感情を共有する可能性がある。その時の被験者の感情、おそらく強い痛みと恐怖がアクセスを閉ざした原因だと思われる。
簡単に言えばフォラスは怖がっているのだ。
ーーーー
レポートを読んだアーケルン会長の柿崎健二は横にいた黒いスーツの男に語りかける。
「どう思う。君もレポートは見たのだろう」
黒いスーツの男、大倉智樹は柿崎の質問に答えた。
「コンピュータ技師でもない私には何とも言えかねると…」
ふん、役立たずめ。そう思いながら柿崎は声を荒げる。
「コンピュータが感情を持つはずがないだろう。そもそも、そんな構造にもなっていなければ、そんなプログラムを組んでいるわけでもない。物理的にありえないんだよ。だが、そんなことよりデータのアクセスだ」
イライラとしながら柿崎は言う。
「田沼を急いで呼んで来い」
「かしこまりました」
大倉が会長室を出ると柿崎はスコッチウイスキーを棚から取り出し、グラスに注ぐ。
氷も入れずスコッチをあおった柿崎はそのまま椅子に座り込む。
ほどなくして、ドアがノックされる。
「入れ」
「お呼びでしょうか、会長」大倉を伴い田沼が部屋に入ってくる。
「そこに座れ」
田沼がソファーに座る。
「君が書いたレポートを読んだ。あれはどういうことだ」
「どういうこととは?」とぼけたように田沼が言う。
「コンピュータが感情を持つ、などとたわけた事が書かれたあのレポートだよ。フォラスが怖がっているだと。コンピュータが感情を持つわけがないだろう」
「お言葉ですが、フォラスの素子数は人間の脳のシナプスより多い。あり得ない話ではないです」
「…」
「さらに言えば、チャミュエルからダウンロードしたデータがフォラスに及ぼす影響は未知数です」
「どうすればいい」
「えっ」
「どうすれば良いのかと聞いているんだ。1回目の通信は、コミュニケートどころかわけのわからない化け物を呼び出す羽目になる。軍に要請しミサイルで破壊しなければどうなっていたか判らん。あれ程の爆発が起こるとは予想外だったがな。2回目の通信はデータをダウンロード出来たものの、アクセス出来ない。とにかく隠蔽工作ももう限界だ。結果を出さなければ我が社は終わりだ」
田沼は口元にわずかな笑みを浮かべて言った。
「簡単な事ですよ。必要なのはコンピュータ技師では無く医者です。フォラスの傷ついた心を癒す心理学者?まあ、コンピュータの心理学者なんていませんがね」
「貴様あ」柿崎が田沼の胸ぐらに掴みかける。
田沼は柿崎の手を払いのけると言った。
「もしあなたが、心に大きな傷を負ったらどうします。一番親しい人のところに行って泣きつきますよね」
「…」
「私も同じですよ。家族や友人の所に行ってグチをこぼします」
「簡単に言え」
「つまり、フォラスは被験者と完全に同期している。なので被験者の家族と話させれば緊張が解けてメモリアクセスを解放するかもしれません」
「被験者の家族か」
「被験者の両親は既に死去していますが、兄が一人いたはずです」




