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怪を喰む  作者: 毎日馬鹿
もぐもぐキューカンバー
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もぐもぐキューカンバー009

訝屋と別れ皿谷 潜と2人きりになると、それまでの彼女とはうって変わって、やたらと喋る子だった。

「アリクイさんは、何で私を助けてくれたんですか?」

並んで歩く少女は、僕の顔を覗き込むようにして問う。ケツが流れてきたからだ、とは流石に言わない。

「誰でもあの場なら、ああするよ。見捨てれなかった。」

あのまま見てるなんて、できなかった。

「なるほど。ちょっとまずいことを聞いてしまいましたね」

察してくれたのだろう。勘のいい少女である。歩幅を合わせるのは落ち着かないのか、歩道を区切る縁石に乗ったり降りたりしながら、こういう所は年相応である。

「それでも、私は救われましたよ。アリクイさん」

ニヤけた口元が見えないように、照れ隠しに頬を掻く。真っ当に感謝されて悪い気になる人間なんてこの世には居ない。今回は、間に合った。

「将来男泣かせになりそうだな、皿谷ちゃん」

「急にどうしました!?そりゃ私は魅力的で引く手あまたでしょうね!あと5年もすればこの美貌にも更に磨きが掛かっていることでしょう!」

この自己肯定感は見習うべきところがあるな、と僕は彼女に笑いかける。「唾つけとくなら今しか無いかもしれませんね」と少女は悪戯っぽく笑った。「中学生の台詞じゃないだろ、それ」

さて本題だ。この皿谷 潜という少女の痕跡を探さなければならない。

「少し皿谷ちゃんについて聞いていいかな」

「スリーサイズ以外なら、私の知ってることはなんでもお答えしましょう!記憶喪失でほとんど何も憶えてませんけどね!」

記憶がないのにスリーサイズは憶えているのか。そういう所だけ妙にしっかりとしている。さっきまでの大人しさが、嘘みたいだ。

「今って幾つ?」

「13歳です!」

「住んでたのはこの辺?」

「憶えてません!」

「通ってた中学校とか」

「憶えてません!」

「町内くるっと回ってみたけど、見覚えがあったりする場所とかあった?」

「全く分かりません!……たぶん」

公民館、スーパー、コンビニ、小学校、公園、中学校、町役場、郵便局。この街で生活しているなら必ず利用しているはずの要所は回っている。それでも、少女には一切ピンと来ない。

「訝屋 依さんの事苦手?」

少女は少し黙った。何かを言おうとして飲み込んで、それを数回繰り返す。歳不相応に慎重に言葉を選んでいるようにも見えた。

「あの人はなんかこう、見透かされてるような気がするんですよ。多分何もかもお見通しで私たちの出方を伺ってるような。命を救って頂いたことは感謝してもし切れませんけれど」

少女は少し気まずそうに下を向く。

「その点、アリクイさんは話しやすくて有難いです」

「それは、良かった」

いつぞやの幼なじみもそんな事を言ってくれたと思い出す。丁度目の前の少女くらいの年齢の時だっただろうか、小っ恥ずかしそうにエヘヘと笑う顔に面影が重なって見えた。

「人が良さそうなところとかも、有難いです」

「そいつはどうも」

「クレープとか買ってくれそうな所も」

視線の先にはキッチンカーのクレープ屋台があった。なるほど、コヤツはもしや策士か。ここぞとばかりの上目遣いに、庇護欲をそそられ完敗する。

「良いだろう、何がいいんだ、申して見せよ」

「ハハー悪代官様」

もし歴史上に悪代官と揶揄される人間がいたとしても、直接悪代官なんて呼ぶ人間は居ないだろ。2人分の苺チョコクレープを買って、公園のベンチで食す。

「美味しいです。アリクイさん。ありがとうございます」

「どういたしまして、甘いもの好きは元々?」

どこかぎこちなく、口元にクリームをつけながら少女は食べる。

「どうなんでしょうね、あんまりクレープは馴染みがないような気がします。こんなに美味しいならもっと早く食べるべきでした、皿谷一生の不覚です」

たかだか13年の人生、今不覚をとったっていくらでも許されるだろ。食べ終わった僕らはまた次の目的地へと足を運ぶ。

「風車ってこんなにおっきいんですね!」

谷にできた街の山側、少し登ったところまで来た。街を一望でき、連なって立つ風力発電機のうちの1機のお膝元である。

春の風が少女の髪を梳く。弾んだ声が、古い記憶を重なったように感じた。僕が誰かの手を引いて歩く日が来るなんて、あの頃は想像もしてなかった。

「ここからなら街を見渡せるんだ、あそこが中学校 あっちが小学校。昨日の公民館と川、向こう側はあんまり賑わってないけどハイキングのコースが引いてあったりするんだけど」

純粋に僕の説明を楽しんでくれているようだった。全体を俯瞰したここからの眺めであれば、なにか思い出せるのかも知れないと思ったのだが、少女は、知らない景色を見るみたいに街を眺めていた。

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