もぐもぐキューカンバー010
それから僕らは交番へ向かった、皿谷ちゃんは最後まで強情に嫌がったため、聞きこみの間少し離れた駄菓子屋で待ってもらうことで手打ちとなった。少女の警察嫌いは筋金入りで、少し強引に手を引くと電柱にしがみついて威嚇してくるようなそんな有様だった。カップペペロンチーノにガリガリ君、そういえば幼なじみとここで良くパピコのカフェオレ味を分け合ったことを思い出す。
「わたひの顔になにか着いてます?」
人の金で食べる駄菓子はお気に召されたようだが、食べながら喋るのは些か行儀が悪いと窘める。
「ああ着いてるよ、頬に駄菓子の食べカスが」
少女はあぁあと小さい悲鳴をあげ、恥ずかしかったのだろうか急いで口元を拭く。
「とてもニコニコですね」
「昔の知り合いに少し、雰囲気が似てるんだよ」
川で溺れるところまでも、そっくりだ。
「わたしに似てるなんて、それはそれは可愛い方なんでしょうね!どんな方だったんですか?」
「2つ上のお姉さんって感じで、いつも人を振り回すのが好きな人だったよ」
「なるほど、素敵な方だったんでしょうね」
僕は自分が思っているよりずっと、存外顔に出やすいタチなのかもしれない。少女にまで顔色から心を読まれてしまっては年上の威厳も何もないじゃないか。
聞きこみの結果は、現在捜索対象になってる行方不明者の中に皿谷 潜の名前は無いこと、そして駐在さんの知る限りではこの街で皿谷姓の人物は居ないという事だった。
最後にこの街唯一の中学校へと向かう、ゴールデンウィーク初日、部活に明け暮れる少数の学生以外は休んでおり、校内は外から見ても閑散としていた。1年ちょっと前までは毎日通っていた母校が、少し他人行儀な顔つきに思えた。
「ここには多分、私は通ってなかったと思います」
「そうか、そうなると皿谷ちゃんはこの街の人間じゃないのかもしれないね」
「そうですね、アリクイさんはここに通われてたんですか?」
「そうだよ、この街にはここしか中学校が無いから他に選択肢がなかったんだけどね。ここで3年間、なんてことない普通で健全な学生生活を送った」
優等生でもなく劣等生でもなく。ごくごく普通の等身大の学生で、ごくごく普通に幼なじみに恋心を抱いて。どこにでもいる、どこにでもある、当たり前でいて、もう二度と戻ることは無い青春を送っていた。今思えば贅沢限りない。
「懐かしいですか」「まぁね」「戻りたいですか?」「そりゃぁそうだね」「そうですか」
そう答える少女の横顔は、ちょっとだけ寂しそうにも思えた。
部活終わりの生徒、後輩の後輩に当たる彼らを捕まえてみては少しだけ話を聞いてみても皿谷 潜について、誰1人知るものはいなかった。駐在の言っていた、皿谷一家はこの街の人間では無いのだろう。
宛が全てハズレ、歩き疲れた僕らは公園に立ち寄る。早朝から溺れ、昼からも歩きっぱなしだった少女の表情には疲労が見え始めていた。公園のベンチで少し休むと首がこくこくと揺れ始める。仕方が無かったので少女をおぶり、寝息を聴きながら逢住公民館へと戻る。
収穫ゼロ。聞きこみなんてドラマのように上手くいくことはない、そんな現実を思い知った。そう思っていた。
プルルルル。公民館の入口に到着し、少女を降ろすと携帯が鳴った。やっと目を覚ました皿谷ちゃんは、先に室内へ入ってもらう。電話をとると昼尋ねた駐在からだった。
「君が昼に言ってた子の行方不明届けの情報が見つかったよ、隣県のだったから時間掛かっちゃった、ごめんね〜」




