もぐもぐキューカンバー008
正午を過ぎても服はまだ湿っていて、僕らは訝屋さんの根城だという場所へ向かった。
「ここだよ」
〝逢住公民館〟そう入口には虫が食いだらけの縦看板があった。
どう考えても不法侵入である。
この人は本当に……。
若い頃はもっとめちゃくちゃしてたんだろうな。
「大丈夫なんですか……?」
「大丈夫だよ、電気もガスも上下水道も使える。とりあえず2人はシャワーを浴びてくるといい。俺はその間に軽い準備をしておくから」
僕が聞いたのはそういう事ではない。
皿谷ちゃんを先にシャワー室に向かわせ、とりあえず不法侵入の刑罰だけ調べた。
最悪3年以下の拘束刑または10万以下の罰金。おいおい最悪前科持ちだぞ。
「……先に使わせてもらって、すみません」
皿谷ちゃんと入れ替わりでシャワーを浴びる。
生き返った。夏日らしいが、まだまだ寒暖差が激しい。特に山中の田舎町であるココはよく冷える。
シャワー室から上がれば、大広間で皿谷ちゃんが座っている。
湯気で湿らせた前髪、鳥肌はもう立っていなかった。遠慮がちにちびちびカップ麺を啜っていた。
訝屋さんはホワイトボードになにやら書き殴っていた。
畳の隅にはコンビニ袋と、読みかけの週刊誌。衣類の塊。古い畳の匂いがする。
「アリクイ君の分もあるよ、それ食べたら今後の作戦会議でもしようか。」
勧められるままに頂く。
カップ麺を啜る音だけが、やけに響く。
「作戦名はそうだな、2人のヒロインに挟まれてるし、修羅場脱出作戦とかどうだい」
少女と故人の修羅場なんて、ご遠慮願いたい。
問題は二つ。
河童。
そして記憶喪失の少女。
何も解決していないが、訝屋はもうほぼ八割解決しているという。
けれどまだ言えないらしい。
「モグリちゃんが警察や親をここまで強く嫌がる以上は、何かしらの原因があると思っていて。それでも記憶を戻す為にはやっぱり何かしら情報は必要だと思うんです」
なるほど、なるほど、と訝屋は咀嚼するように頷く。
「ソレは逃げじゃない?」
試されている気がした。
「逃げでは、無いです」
そう答えると、
「ならいいんだよ」と。
訝屋さんはそれ以上言わなかった。
「そしたら、皿谷ちゃんとアリクイ君で皿谷ちゃんの記憶が戻るヒントでも探してきて、俺を信用できるならここの拠点は好きに出入りしてもらって構わないから。俺は河童退治のための準備と、できるなら皿谷ちゃんにまつわる情報も集めとくよ。夕方頃再集合で」
異論はなかった。
黒い手に襲われた少女、つまりは幼なじみが迷惑をかけた被害者である。放っておけなかった。
「じゃぁ、行っておいで」
少しでも続きが気になれば、ブックマークや評価を頂けると励みになります。




