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『残憶レプリカ:』プロットver  作者: 毎日馬鹿
参章 ぱらぱらドリーム
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53/54

ぱらぱらドリーム017(了)

オチ、あるいは蛇足。


縒木は僕の服をぐちゃぐちゃにしながら一頻り泣いて、憑き物が落ちたような顔になる。金髪には似合わない、黒縁のメガネをかけ直して、それでもこのアンバランスさが、今の彼女だった。


気づけば、校舎の窓の外はほんの少しだけ青かった。

月明かりだけだった廊下へ、薄く白んだ光が混ざり始める。


「ねぇ、屋上行ってみようよ」

「さすがに閉まってるだろ」

「それでもいいの、今はちゃんとしてない思い出が、もっと欲しい。付き合ってくれるでしょ」


そんな言い方をされちゃ、断れるわけがなかった。

ふたりで階段を登っていく。もう、手を握る必要はなかった。今日感じていた危うさはそこには無かった。


ゴールデンウィーク4日目、未明。


ガチャリ。

扉が開く。都合良く、屋上への扉は鍵をかけ忘れられていた。


「ラッキー、開いてたじゃん」


遠くで、新聞配達のバイクの音がした。

冷めた空気が、入れ替わっていくように流れる。


肩の荷がおりたみたいに、彼女は軽い足取りで進む。

くるり、と一回転する。

朝焼けの屋上で揺れる金髪は、新しい服を買ってもらった子供みたいに浮かれて見えて。

それでいて、どこか安心したようにも見えた。


朝日が昇っていく。

夜のあいだ曖昧だった世界が、少しずつ輪郭を取り戻していく。


「実はさ」


朝日を眺めながら、縒木は失敗話を聞いてほしいみたいに、語り始めた。


「お姉ちゃんがいるんだよ。1個うえに。私よりずっと優秀な人」

「お前より優秀って、あんまり想像できないな」


「ありがと、でもお姉ちゃんは日下部君みたいなタイプ。あんまりやらなくても出来ちゃう。それでいて、私と一緒にずっと努力してたんだよね。だから、模試なんかはこの学校じゃ誰にも負けなかった。お母さんの、いや私の誇りだったよ」


「でも、」


「お姉ちゃんさ、そんなに優秀だったのに。半年前に駆け落ちしちゃったんだよね。私とお母さんを置いて、置き手紙だけ残して遠くに行っちゃった」


「私はさ、多分羨ましかったんだよ。何もかも上手くできて、それでいて全部投げ出してしまえるお姉ちゃんが」


「私も全部投げ出したかった。でも、全部投げ出したかったけど、お母さんも大事にしたかった。優等生でもあり続けたかった。そうやって、欲張ろうとしたらパンクしちゃった」


少しだけ、彼女の痛みがわかったような気がした。


「これから、どうするんだ」

「どうもしないよ」


「今まで通り、私は優等生で居たい。ちゃんとしてることは嫌いじゃないしね」


「でも、」


「ちゃんと、羽を伸ばす時間を作るよ。ダメな時は立ち止まる。嫌な時は逃げる。面倒くさくなったら、その時はサボっちゃうかもしれない」


「サボりなら、得意だから手伝ってやるよ」

「××はもっと真面目になってもいいと思うけどね。でもその時は任せるよ。1人じゃないだけ、ずっと楽になるから」


風が吹く。縒木の金髪が揺れる。

彼女は朝日に目を細めながら、ゆっくり息を吸った。

もう、その呼吸は苦しそうじゃなかった。


首の痣は、最初からそんなものはなかったみたいに、綺麗に消えてしまっていた。


「……ねぇ」

「ん?」

「今日さ」


縒木が、悪戯っぽく笑う。


「このまま海とか行かない?」

「は?」

「どうせあと二日休みじゃん。もっと遊ぼうよ」


優等生らしくない提案だった。

でも、不思議とそっちの方が、今の縒木には似合っている気がした。


遠くで、電車の走る音がする。


「いいけど。お前、自分が家出中って忘れてないだろうな。気が済んだら、ちゃんと帰れよ」

「へぇ。気が済むまでは、付き合ってくれるんだ」

「そりゃぁな。他に誘う宛があるなら別にいいけど」

「うわ、意地悪」


風が吹く。黒縁のメガネを押さえながら、縒木は小さく息を吸う。

もう、その呼吸を邪魔するものはなかった。


……きっとこれから先も、

また苦しくなる日は来る。


ちゃんとしていたい日も。

全部投げ出したくなる日も。


それでも。


朝焼けの中で笑う今の彼女は、

その全部を抱えたまま、ちゃんと息をしていた。


ぱらぱらドリーム(了)


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