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『残憶レプリカ:』プロットver  作者: 毎日馬鹿
参章 ぱらぱらドリーム
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ぱらぱらドリーム015

「ほら。ここなら開いてる」


ガタ、と窓を動かして入る。ズボラで有名な教師の担当教室は、こういう時だけ妙に信用出来た。


「手際が良くて素晴らしい。泥棒の才能あるよ」

「それは、あんま嬉しくないかな」


誰もいないのに、小声で僕らはクスクスと笑い合った。


そうやって僕らは忍び込む。深夜の教室は、静まり返っていて。まるでひとつの生き物みたいに、大きな圧力があった。


「結構雰囲気あるね」

「怖い?」

そうやって茶化したつもりだった。


「ちょっとね」

肩透かしを食らう。言い出しっぺは誰だったのやら。


カチリ。小さな音がした。

振り返る。縒木が、首元へ手を掛けていた。


黒いチョーカー。今日ずっと、痣を隠していたそれ。


「やっぱちょっと息苦しいね」


金具が外れる。するりと落ちた黒が、彼女の指へ絡まった。露わになった痣は、今朝よりずっと黒かった。


「じゃ、行こっか」


月明かりだけが照らす廊下を二人で、

少し近い距離に気付かないふりをしながら、僕らの教室へと向かう。


「なんか、同じ教室なのに。別の場所みたいだね」


縒木は落ち着かないみたいに教室を見回して、それから、えいっ、と日下部の机を小突いた。まるで足元を固めるようにゆっくり1周して、彼女は僕に言う。


「ねぇ、××。そこ座ってよ」

いつもの席。座れば、隣には縒木。


「覚えてる?去年、入学したての時さ、私に話しかけてくれた事」

「忘れたな」

「嘘だ。目を逸らさないでよ。恥ずかしがらなくていいから。あの時は無愛想に返しちゃったけど、あれ結構嬉しかった」


女子の輪に入っていなかった縒木をちょっとだけ心配して、余計なお世話かもしれないと、それでも声をかけた。ちゃんと覚えている。それが彼女と交わした最初の会話だった。


「懐かしいな」

「やっぱ覚えてるじゃん」

「なんの事だかな」


あの時から、縒木は優等生だった。冷たく返された事だって、邪魔をしてしまったんだろう、くらいに思っていたのだけれど。好印象だったとは思っていなかった。


「実はさ、結構助けられっぱなしなんだよね」

「それは……お互い様だと思うけど」

「だって、今もこうやって付き合わせてる」

「これくらい、なんだってない」


縒木は返事をしなかった。まるで違う場所のように感じたこの教室で、確かに自分の居場所だった机、使い馴染んだそれを、確認するように触っていく。引き出しの中の教科書は綺麗に重ねられていて。整頓されていた。

全部、“ちゃんとしていた頃の縒木 日陰”のそのままがあった。


「……うわ。気持ち悪い」


そう言ったくせに。縒木は机の角へ指先を滑らせる、丸くなった木目をなぞる。毎日触っていたはずなのに。もう、誰か別の人間の机みたいに見えた。


教室の外で、風が鳴る。月明かりだけが、教室を照らす。


「……ねぇ」

縒木は、自分の席へ座ったまま言う。


「見に行ってもいい?」


彼女がこだわり続けた、ちゃんとした自分、その象徴。残ったソレを見に。縒木は立ち上がる。廊下へ出る足音が、夜の校舎へやけに響いた。


掲示板の前で、縒木は止まる。白い紙。学年順位。点数。偏差値。見慣れた名前の列。その中に。


縒木 日陰の名前は、当たり前のようにそこにあった。


「情けない数字」

その声は、緊張が溶けたように聞こえた。縒木は、自分の順位を指先でなぞる。


「……あ」

小さく漏れた声。縒木は、自分自身を嫌悪したみたいな顔をした。


「まだ安心してる」

指先は離れない。


「まだ、“ちゃんとしてた私”に縋ってる」

喉の奥を押し潰すみたいに、縒木は呟く。


「ほんと気持ち悪い」

吐き捨てるみたいに言う。でも。指は、そこから離れなかった。


「ぐちゃぐちゃにしたい」

縒木は、順位表を睨んだまま言う。


「こんなの、もう要らないって思いたい」

紙を掴む指先へ、力が入っていた。


「なのに。まだ」

声が掠れる。


「“こっち側”に戻っちゃいそうな気がする」

優等生。真面目。期待に応える側。その呟きは、誰より縒木自身を傷つけていた。


べり。


少しだけ。力が入ったその指から、張り出された順位表に亀裂が入った。でも、それ以上。彼女は破くことをしなかった。


「もうさ、辞めたいんだよね」

縒木は、順位表を睨む。


「真面目とか」

「優等生とか」

「期待されるのとか」

「ちゃんとしてる私とか」


吐き出すみたいに、縒木は言う。

「もう、全部」


ぎち。首元で音が鳴った。縒木の身体がびくりと揺れる。首筋の痣が、縄で締めるみたいに黒く浮き上がる。縒木が息を吸う。


でも。

喉が途中で絞られたみたいに、最後まで入っていかなかった。


「っ……ぁ」


ぼんやりとした曖昧な黒い縄が、

軋み音を立てて彼女の首を締めていた。

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