ぱらぱらドリーム009
「おかえり、待ちくたびれたよ」
誰だ。そう思えてしまうほどに。
玄関へ歩み寄ってきた少女は、変わってしまっていた。
明るく金髪に染まった縒木が、そこに立っていた。好きに使ってくれていいとは言った。けれど、まさか他人の家で髪を染める非常識に出るなんて、想像できなかった。
「ねぇ、どう?」
「……似合ってるよ」
急に変えられたその髪は、それでも彼女に似合ってしまっていた。ノートを几帳面で正確にとる優等生の姿は、もうどこにもいなかった。
そのくせ。
金髪の縒木も、驚くほど自然にそこへ立っていた。
「そう?嬉しい」
そう言って笑う。けれど縒木は、落ち着かないみたいに何度も髪を触っていた。
「……でも変だね。鏡見るたび、自分じゃないみたい」
そう笑う縒木を見て、“受け入れてるんだろ”そんな訝屋の言葉が、嫌に蘇った。
「なんでまた、急に金髪」
「だって、こうしたほうが、堂々と外歩けるでしょ」
縒木は悪戯みたいに笑う。教室で見ていた横顔と、今目の前で笑っている少女が、上手く繋がらなかった。
「でもやっぱり髪が痛むね、キシキシだよ。自分でやったからかな、不快」
言葉ではそう言いつつ、自身の変わった姿が気になるのか彼女はソワソワと鏡やスマホを何度も見ていた。
「ほんとに似合ってる?変じゃない?」
「あぁ。でも、ちょっと染残しは気になるけどな」
「仕方ないでしょ、初めてだったんだし。やっぱり一人でやるのは難しいよ」
「……こんな髪色にして、先生に怒られるぞ」
「学校ね。じゃぁ、その時は一緒に怒られてよ。××のは私がちゃんと染めてあげるからさ」
「勘弁してくれ。そんな事したら僕は槍玉だ。優等生に悪影響与えてグレさせたなんて、そんな噂で持ち切りになっちまう」
「……こんなので、壊れるならさ」
軽い口調で、縒木は言った。
「最初から、大した優等生じゃなかったんだよ」
冗談みたいな口調だった。でも、その言葉だけは妙に本気だった。
「ちゃんと、お土産買ってきてくれてるじゃん。どれどれ、良いね悪くないセンスだ」
「買ってきてもらって、その態度か」
「冗談だって。ありがと、これ好きなんだ」
「知ってるよ。たまに、コソコソ学校で食べてただろ」
「え……見てたの?」
「偶然な」
「エッチ」
ほんとに今日のコイツは面倒臭い。
「ねぇ、××今日の予定はもうないんでしょ」
「そうだな」
「じゃぁさ」
ちょっとだけかしこまったように、縒木は向き直る。また頼み事をする姿勢だった。金色になった髪を指へ絡めながら笑う。
「今日は一緒に、ちょっと悪いことしようよ」
その言い方は、遠足の計画を立てるみたいに軽かった。
——だから余計に、怖かった。
まるで縒木が、“壊れていくこと”そのものを、楽しみにしているみたいに見えてしまった。
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