ぱらぱらドリーム008
“めんどくせぇ”
「……もしもし」
“聞こえなかったことにするんじゃねぇよ。薄情者が。簡単に俺を売りやがって。お陰様でこっちは昨日から大変だよ”
「訝屋さんを売る?待ってください、僕はそんなことした覚えは」
“澪影 灯火”
心当たりしか無かった。
「すみません。どうしてもと詰められまして」
“だろうね。従順なハチ公だよ。君がゲロったせいで昨日の夜は中身のない長電話。”
“今の花の女子高生ってみんなあんななの? 話なんて合うわけないのに、くっそ強引でさ。”
“今朝は根城を落とされ気づけば朝食が出てきた。びっくりだよ、タチの悪い押しかけ女房だ。”
相変わらず行動力のある強かな先輩だった。彼は心底怠そうに語る。
“で、今度は何に絡まれたわけ”
「変え首、かもしれない物に、友達が憑かれたみたいなんです」
僕は、縒木のことを説明した。
首を絞められる夢。変わっていく性格。家出。“優等生じゃなくなりたい”という言葉。死んでしまうかもしれない、それなのに異常に軽く見てる彼女。
電話の向こうで、訝屋はしばらく黙っていた。
“……なるほどね”
珍しく、茶化さなかった。
「どうにか、助けられないんでしょうか」
“無理”
即答だった。
「っ……なんで」
“だってその子、自分で受け入れてるだろ”
冷ややかに訝屋はそう告げる。
“変わっていくことを”
「そんなの」
“違う?”
言葉が止まる。
“アリクイ君。怪異ってのはな”
一拍。
“人間の思いへ、寄ってくるんだよ”
『優等生っぽくないこと、してみたかったんだよ』確かに、縒木はそう言っていた。
“死にたいやつには、死ぬもんが寄る”
“消えたいやつには、そういうもんが寄る”
“怪異ってのは、大体そういう隙間に入り込む“
「……でも、アイツは、怖がってました」
“怖がることと、望むことは両立するだろ。そもそも誰だって変化は怖いよ”
“それとも、君はその子が助かりたがってるように見えたかい?”
喉が詰まる。縒木は確かに怖がっていた。でも同時に、ちゃんとしてるのが馬鹿馬鹿しくなった、とも言っていた。
あの笑い方を思い出す。壊れかけているくせに、それでもどこか楽しそうだった横顔を。
“澪影 灯火はさ”
不意に先輩の名前が出る。
“あの子は生きたがったんだよ”
“だから手を貸した”
“でも今回は違う”
“その子、自分で進んでいってるだろ”
“変わる方向へ“
「……」
“壊されてるんじゃねぇよ”
“壊れようとしてる”
その言葉は、やけに重かった。
“だから俺は助けないし、関わらない”
「……」
“だから、そうだな。家出の共犯にでもなってやれよ。君が出来るのはそういう事だよ”
“今のあの子が望んでんのは、多分そっちだ”
言いたいことは言い切ったとばかりに、一方的に通話が切れる。耳からスマホを離しても、訝屋の言葉だけが残っていた。
壊れようとしている。助かりたがっていない。
きっと訝屋は、間違ったことを言っていない。それでも。ソファーで眠っていた縒木の顔が、頭から離れなかった。
それでも。
縒木が、助けを求めていなかったとして。
だから見捨てていい。なんて、
僕にはどうしても思えなかった。
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