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『残憶レプリカ:』プロットver  作者: 毎日馬鹿
参章 ぱらぱらドリーム
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ぱらぱらドリーム007

「ちょっと、出てくるよ。小一時間もしないうちに戻ってくる。僕の部屋は好きに使っていいから、大人しく待ってて」


先約を済ませてくると縒木に伝えると、相変わらず茶化しつつ彼女は了承した。家に女の子を置いたまま、別の女の子へ会いにいくなどいいご身分だと。

そんな難癖をつけられ、お土産を所望された。


彼女はスマホすら置いて出てきたという。何かあれば家の固定電話から掛けてくるように伝え、家を出た。過保護なのかもしれない。でも、それだけ僕は縒木が心配だった。


放っておけば、本当に壊れてしまいそうだった。


それでも、今の僕に出来ることなんて何もない。

だから、僕は今僕が出来ることを。

昨日交わした何でもない、それでも大事に思ってしまった約束を果たしに歩いた。


──せめて、皿谷 潜には、“前を向くこと”を諦めて欲しくなかった。


ゴールデンウィークも後半に入って、肌へ触れる風はもう春じゃなかった。蒸し暑い。

僕は少し遅れて公園へ着いた。ベンチには、皿谷が足をぶらつかせながら待っていた。


「アリクイさん!やっと来ましたね。待ちくたびれましたよ。干からびてしまいそうです」


本物の河童だったやつが、干からびるなんてギャグは、冷静になれば全然笑えない。でも、皿谷はそういう冗談を、ちゃんと冗談として言ってくれる。


「ほら、これ買ってきたから許してくれ」


「あ、パピコ。これ、幼なじみさんが好きだったんですよね」


「そう、なんだけど。あれ……この話って皿谷ちゃんにしたっけ」


あからさまに皿谷が目線を外したのがわかった。たった二日の付き合いだった。それでも、皿谷が誤魔化す時はすぐ分かる。


「こっちを見なさい、皿谷ちゃん。パピコあげないよ」


「そんな意地悪言わないでくださいよ、アリクイさん」


振り返りこちらを上目遣いに見るが、目を合わせれば黒目が露骨に泳ぐ。なるほど、大体の察しが着いた。右腕のブレスレットが反射で光る。


半分に割ったパピコを皿谷へ渡す。そのまま、逃がさないみたいに手首を掴んだ。


「アリクイさん……?」


「あの子に聞いたんだな」


「……いえ。少しだけ流れてきた、みたいな感じですよ。アリクイさんと幼なじみさんの幼少期。羨ましい思い出でしたよ」


そこまで口にして、皿谷はなにかに気づいたように口を閉じた。


「すみません、2人だけの思い出だったんですよね。覗く気はなかったんです」


「気にしないでくれ」


多分。幼なじみの記憶が流れ込んだのだろう。故人の遺品を、幽霊が受け取る。それだけで何が起きてもおかしくなかった。怪異側の理屈なんて、全てを理解できるわけが無い。それでも、流れ込んでしまった、そう考えるのが自然だった。


もしかしたら、僕はその2人だけの思い出を、ずっと誰かに吐いてしまいたかったのかもしれない。


「アリクイさんのちっちゃい頃の顔とかも見ちゃいました。よく泣く子だったんですね」


「それは。ちょっと気にするから、やめてくれ」


そうやって談笑する。皿谷は、僕らの過去の輪郭を撫でるみたいに笑った。それ以上、深くは触れてこなかった。


河童だったことなんて、会話していると忘れそうになる。皿谷は、どう見たって普通の女子中学生だった。

アイスが少しずつ溶けていく。皿谷はおどけて、僕も適当に返す。


そんな普通みたいな時間のくせに、頭の片隅ではずっと、縒木の顔がちらついていた。今この瞬間も、あの赤黒い痕が、縒木の首へ食い込んでいたら。そんな想像が、会話の隙間へ何度も入り込んでくる。


「なぁ、皿谷ちゃん。ひとつ聞いてもいいかな」


「なんでしょう」


「【変え首】ってのに心当たりはあったりしないよな、この地域の伝承のひとつらしいんだけど」


「残念ながら。……アリクイさん、また何かに首を突っ込んだんですか」


少女は目を細める。

「救われた身でこんな事を言うのはなんですけど、私はアリクイさんが心配ですよ」


「友達がね、様子が変なんだ。知らないふりは出来ないよ」


「まぁ。貴方は、そうするんでしょうね。でも、あんまり危ない事はしないでくださいよ。幽霊だって、心配くらいするんですから」


「ありがとう。肝に銘じておくよ」


放っておけばいい。多分、普通の人間ならそうしてしまえる。でも僕は、昔から“見なかったこと”にするのが下手だった。


「でも、アリクイさんなりに考えて、そして行き詰まったんですよね。それならもう、訝屋さんに聞いてみるのが早いでしょう。なんたってあの人は専門家なんですから」


訝屋。

確かにあの胡散臭い怪異収集家なら、何か知っているかもしれない。知っていてほしかった。嫌な予感を振り払うように、僕はスマホを取り出し掛ける。


コール音が鳴る。

一回。

二回。

三回。

切ろうか迷ったタイミングで、ようやく通話が繋がった。


“めんどくせぇ”

開口一番、それだった。

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