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『残憶レプリカ:』プロットver  作者: 毎日馬鹿
参章 ぱらぱらドリーム
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ぱらぱらドリーム005

その痕を見て、喉が詰まった。


縒木もようやく気づいたみたいに、慌ててTシャツの首元を引き上げる。隠すみたいに。見せるつもりはなかったのだろう。


気まずそうに目を逸らす。

けれど、見過ごせるわけがなかった。


「……どうしたんだよ、それ」

自分でも分かるくらい、声が低くなっていた。


「そんな怖い声出さないでよ」

困ったみたいに視線を逸らす。


「見なかったことに、とか。できたりしない?」


「出来ない」

即答だった。


「そっか」

彼女は小さく肩を竦める。何故か少しだけ嬉しそうにも見えた。


「まぁ、そういう奴だったね」


「諦めろ」


「でもさ、カレー冷えちゃうし。その後じゃダメ?」


「ダメだ」

言葉を被せる。思ったより強い声が出た。


今日の縒木は、ずっとおかしかった。家出。壊れたみたいな笑い方。妙に軽い言葉。それだけなら、まだよかった。それだけなら、まだ笑って見過ごせた。


でも。

首に残った、その痕だけは、どうしても見過ごせなかった。あんなもの、誰かにつけられていい痕じゃない。

気づけば、奥歯を噛んでいた。


「わかったって。降参」

縒木は白々しく両手を軽く上げる。


「ちゃんと話すから。そんな睨まないでよ」


茶化すみたいに笑うくせに、視線だけが落ち着かなかった。目を合わせようとしない。


「……その痕、誰に」


「だから結論早いって」

縒木は苦笑する。


「私だって」

縒木は視線を落とした。


「……よくわかんないんだよ」


カレーの湯気だけが、場違いみたいに静かに揺れていた。


「一週間くらい前からさ。同じ夢ばっかみてる」


ぽたり、と。風呂上がりの髪先から雫が落ちる。そのすぐ下にある赤黒い痕が、やけに生々しく見えた。


「真っ暗っていうか……何も無い場所。自分がいるってことだけ分かるの」


縒木は、自分の首元を指でなぞる。


「周り見ても、何も見えなくて。でも、急に人影が立ってるの」


声は不思議なくらい平坦だった。


「そしたら、いつの間にか首に縄が巻かれててさ」

細い指が、無意識みたいに喉元へ触れる。


「ぐーって、締められるの。息できなくて。

夢なのに、ちゃんと痛いんだよ」


そこで一度、縒木は言葉を止めた。

僕は何も言えなかった。


「で、起きたらこれ」


縒木は首元の布を少しだけ引っ張ってみせる。顕になった首筋には、赤黒い痕が痛々しく浮かび上がっていた。


「最初はもっと薄かったんだけどね。だんだん濃くなってきてさ。締まる力も強くなってる気がして」

そうやって中身のない笑顔を作ってみせる。


「そのうち、本当に死ぬのかもなぁって」


まるで、明日の天気でも話すみたいな口調だった。昔、縒木が授業中に教科書を忘れたことがある。たったそれだけで、この世の終わりみたいな顔をしていた。そんな小さなことで一喜一憂できた人間だったのに、今は自分が死ぬかもしれない話をこんな平坦に喋っている。


エアコンの音だけが響く。やけに静かだった。


「そしたら急に、怖くなったんだよね」

縒木はぽつりと呟く。


「振り返って思い出してみたらさ、私って“頑張ってた記憶”しか持ってないの」

乾いた声が漏れる。


「勉強して。期待されるように、ちゃんとして。一生懸命に、ずっとそうしてきたのに」


そこまで言って、縒木は少しだけ黙った。


「空っぽだったんだなって」


それは多分、彼女が縒木 日陰という人間を説明するには、十分すぎる言葉だった。テストでは常に上位。提出物は厳守。教師受けは良好。


クラスメイトの誰かが、「縒木って人生失敗しなさそうだよね」そう言っていたのを覚えている。でも。本人は今、空っぽだと言った。


「だからまぁ……最後くらい、優等生っぽくないことしてみたかったんだよ」


家出、とか。

そう言って、彼女は冗談みたいに笑った。


「これで少しは納得してくれた? だから××が思ってるような、そういうのじゃないよ。誰かに酷いことされたりとか、そんな話じゃないよ」


そして、自虐的に続ける。

「もしかしたら死ぬのかもしれないけど、でももうどうでもいい気もしててね」


「……いや、よくないだろ」


思わず声が出た。自分でも驚くくらい、苛立っていた。死ぬかもしれないなんて話を、そんな顔で簡単に言って欲しくなかった。


「よくなくてもさ」

縒木は小さく笑う。


「ちゃんとしてるのが、急に馬鹿馬鹿しくなっちゃった」

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Twitter⇒@Alwaysfoolgirl

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