ぱらぱらドリーム002
エアコンの音さえ響く、図書館内は話すには静か過ぎた、僕と縒木は必要だったあの1冊を借りて図書館を後にした。
しかし、世間はゴールデンウィーク真っ只中。
この町に数少ないオシャレなカフェなんてものは当然満席で、ファミレスでさえ学生と家族連れで溢れていた。
結局僕らは、連日皿谷と来たあの公園の、簡素なベンチに腰を落ち着けた。
「それで、話ってなんだよ」
「それはね……。××さ、今日暇だったりしないの?」
藪から棒に彼女は問う。タイムカプセルの手掛かりを探したり、あの幽霊の少女との約束を果たす用はあった。
この資料から、何か記憶に引っかかるものが見つかればと思っていたのだけれど。
「予定が無いことは、無い」
「女?」
「うるさい」
「図星じゃん。ゴールデンウィーク満喫してるんだね。羨ましいよ」
「……もし、暇だったら。どうだって言うんだよ」
縒木は妙に機嫌が良さそうに見えた。
いや、違う。上手く言えないけれど、ブレーキの壊れた人間みたいだった。
「そうだなぁ」
縒木は少し考えるふりをしてから、悪戯っぽく笑った。
「──駆け落ちとかどう?」
笑っているのに、その笑顔は軽かった。
「冗談はよせよ」
「××さ満更じゃないでしょ。ずっと席隣だったんだから、君の視線くらい流石にわかるよ。このスケベ」
突拍子も無いその冗談を、茶化しながらも彼女は否定せずに踏み込む。普段は見せないような、子供っぽく悪戯な笑み。それでも目の下には薄く隈が浮いていて、どこか寝不足の人間みたいな顔だった。
「変なもんでも食べた?お前らしくない。いつもの優等生ちゃんはどこいっちゃったんだよ」
「……知らないよ。死んじゃったんじゃないかな」
そう彼女は笑う。笑っているのに、どこか他人事みたいだった。
自分のことを話しているはずなのに、まるで別人の噂話でもしているみたいに。
「……駆け落ち、なんてのは流石に冗談なんだけどさ」
彼女はベンチへ視線を落としたまま、
小さく続ける。
「それでも、ちょっと巻き込まれて欲しいんだよね」
「面倒事は勘弁してくれよ」
遠くでサイレンが鳴る。遠目に見えたパトカーが、ゆっくり路肩へ停まった。
「私さ、家出中なんだよね。一昨日から家帰ってなくてさ」
警官が1人車から降りるとこが見えた。
ただそれだけなのに、妙に心臓が嫌な音を立てる。
「流石に、今頃お尋ね者かもね」
──だから、××。
私と一緒に逃げてよ。
悪い冗談だと思った。少なくとも、いつもの縒木は、冗談でもこんなことを言う奴じゃなかった。
それでも。その目は少しだけ必死だった。
僕は縒木の細い腕を掴むと、そのまま公園を飛び出す。
「……え、ほんとに?」
呆れたみたいに笑う声を背中で聞きながら、僕はそのまま走り出した。
風が抜ける。
掴んだ腕だけが、
妙に熱かった。
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