ぱらぱらドリーム001
尻、おっぱい、と来て。では次は何を語るべきなのか。男という生き物は古来より、尻派と胸派に分かれ争ってきた。
その二大勢力へ、今さら第三勢力が割って入る余地などあるのだろうか。
——否だ。だからこそ、風穴を開ける価値がある。
さほど大きくはない市立図書館。
ゴールデンウィーク中にも拘わらず、館内は妙に静かだった。空調の音。ページを捲る音。遠くで子供が走る音。
そんな中、僕は郷土資料の棚を目指していた。
出合い頭。とはまさにこういったことを言うのだろう。曲がり角を抜けたその時、正面から誰かとぶつかった。よろめいて二歩下がる。目の前には本を片手に派手に尻もちを着いた少女。
セミロングの黒髪が、今日は珍しく緩く二つに結ばれていた。制服姿しか見慣れていない三縄。ブラウンのワンピースなんて、着ているだけで別人みたいだった。
黒縁眼鏡まで掛けている。知的、というより、もはや文学少女じみている。
——だからこそ。
転倒の拍子に覗いたスカートの奥が、余計に破壊力を持っていた。
「何処見てんの、バカ」
尻派、胸派へ送るこの章の僕が送る最強のアンチテーゼは、眼鏡×パンチラで行かせてもらう。粗暴な言葉に反して、耳まで赤くなっているのが妙に破壊力を持っていた。脳が追いつかない。いやいや、お前そんなフルコンボを叩き込んでくるキャラじゃなかったろう。
「悪い、大丈夫か?」
座り込んでいる彼女に手をさし伸ばす。握られ引き上げれば「それはどれに対しての謝罪なわけ」と、そのリボンの着いたソレを拝ませてもらったことに対する、とはみなまで言わない。
三縄 小夜。彼女は高校の同学年同クラス、もっといえば学籍番号が1つ違いで、席は隣り、誕生日は2日違い、そんな奇妙な腐れ縁で繋がれた学友だった。
「全く、最悪。なんたって休日にあんたの顔見なきゃ行けないのよ、せっかくの休日に鬱陶しい学校を思い出させないでよ」
饒舌にペラペラと憎まれ口を叩く彼女だが、その頬は言葉に反して友人に向けた笑みになる。学校でもそういった表情を見せてくれれば、友人だって増えるだろうにと、余計な老婆心。
昼休み、三縄は大抵図書室にいた。誰かと話しているところを、あまり見た記憶がない。
部活にも入らず、放課後にはいつの間にか消えている。二人組を作れと言われれば、いつも少しだけ困った顔をする。本人曰く、「一人が一番楽」らしい。
「そもそもなんでココに××?」
そこまで言って、三縄は一度口を閉じた。何か計算違いでもしたみたいに。
「……いや。別にいいや」
長い睫毛。少し茶色がかった瞳。垂れ気味の目尻。相変わらず整った顔だと思う。
だからこそ。
首元まで隠すインナーだけが、妙に浮いて見えた。
「今日は、ちょっと本を探しにきてて。あぁ、そう、ちょうどソレだ」
彼女の手に握られていた分厚い一冊を指差す。花の女子高生には全く似合いはしない古ぼけた郷土史料。彼女の読書の好みとは、どうにも結びつかない一冊だった。
その瞬間、三縄が反射みたいに後退った。庇うように、胸元へ本を抱き寄せる。
——初めて見る顔だった。
頬に、じわりと汗が浮いている。
あまり詮索すべきではないだろうか。
「悪い。それあと何冊かあるよな、別の探して読むから、気にしないで。俺は向こうの方で読んでるから。」
そう言い残し、彼女へ背を向ける。余程あの本が必要なのだろう。なら、読み込む時間だって必要なはずだ。誰にだって、隠しておきたいことくらいある。根掘り葉掘り暴くのは、友人としてやるべきではないだろう。
そうやって数歩進めば、小さな足音が追ってきて、背を引かれ立ち止まる。
「ごめんね、ちょっとだけ話聞いて欲しいかも」
その声だけ、妙に弱かった。
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