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『残憶』  作者: 毎日馬鹿
参章 ぱらぱらドリーム
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ぱらぱらドリーム001

尻、おっぱい、と来て。では次は何を語るべきなのか。男という生き物は古来より、尻派と胸派に分かれ争ってきた。

その二大勢力へ、今さら第三勢力が割って入る余地などあるのだろうか。

——否だ。だからこそ、風穴を開ける価値がある。

さほど大きくはない市立図書館。

ゴールデンウィーク中にも拘わらず、館内は妙に静かだった。空調の音。ページを捲る音。遠くで子供が走る音。

そんな中、僕は郷土資料の棚を目指していた。

出合い頭。とはまさにこういったことを言うのだろう。曲がり角を抜けたその時、正面から誰かとぶつかった。よろめいて二歩下がる。目の前には本を片手に派手に尻もちを着いた少女。

セミロングの黒髪が、今日は珍しく緩く二つに結ばれていた。制服姿しか見慣れていない三縄。ブラウンのワンピースなんて、着ているだけで別人みたいだった。

黒縁眼鏡まで掛けている。知的、というより、もはや文学少女じみている。

——だからこそ。

転倒の拍子に覗いたスカートの奥が、余計に破壊力を持っていた。

「何処見てんの、バカ」

尻派、胸派へ送るこの章の僕が送る最強のアンチテーゼは、眼鏡×パンチラで行かせてもらう。粗暴な言葉に反して、耳まで赤くなっているのが妙に破壊力を持っていた。脳が追いつかない。いやいや、お前そんなフルコンボを叩き込んでくるキャラじゃなかったろう。

「悪い、大丈夫か?」

座り込んでいる彼女に手をさし伸ばす。握られ引き上げれば「それはどれに対しての謝罪なわけ」と、そのリボンの着いたソレを拝ませてもらったことに対する、とはみなまで言わない。

三縄(ミナワ) 小夜(サヨ)。彼女は高校の同学年同クラス、もっといえば学籍番号が1つ違いで、席は隣り、誕生日は2日違い、そんな奇妙な腐れ縁で繋がれた学友だった。

「全く、最悪。なんたって休日にあんたの顔見なきゃ行けないのよ、せっかくの休日に鬱陶しい学校を思い出させないでよ」

饒舌にペラペラと憎まれ口を叩く彼女だが、その頬は言葉に反して友人に向けた笑みになる。学校でもそういった表情を見せてくれれば、友人だって増えるだろうにと、余計な老婆心。

昼休み、三縄は大抵図書室にいた。誰かと話しているところを、あまり見た記憶がない。

部活にも入らず、放課後にはいつの間にか消えている。二人組を作れと言われれば、いつも少しだけ困った顔をする。本人曰く、「一人が一番楽」らしい。

「そもそもなんでココに××?」

そこまで言って、三縄は一度口を閉じた。何か計算違いでもしたみたいに。

「……いや。別にいいや」

長い睫毛。少し茶色がかった瞳。垂れ気味の目尻。相変わらず整った顔だと思う。

だからこそ。

首元まで隠すインナーだけが、妙に浮いて見えた。

「今日は、ちょっと本を探しにきてて。あぁ、そう、ちょうどソレだ」

彼女の手に握られていた分厚い一冊を指差す。花の女子高生には全く似合いはしない古ぼけた郷土史料。彼女の読書の好みとは、どうにも結びつかない一冊だった。

その瞬間、三縄が反射みたいに後退った。庇うように、胸元へ本を抱き寄せる。

——初めて見る顔だった。

頬に、じわりと汗が浮いている。

あまり詮索すべきではないだろうか。

「悪い。それあと何冊かあるよな、別の探して読むから、気にしないで。俺は向こうの方で読んでるから。」

そう言い残し、彼女へ背を向ける。余程あの本が必要なのだろう。なら、読み込む時間だって必要なはずだ。誰にだって、隠しておきたいことくらいある。根掘り葉掘り暴くのは、友人としてやるべきではないだろう。

そうやって数歩進めば、小さな足音が追ってきて、背を引かれ立ち止まる。


「ごめんね、ちょっとだけ話聞いて欲しいかも」

その声だけ、妙に弱かった。

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