うごうごベイビー016
「ほら、いつまで寝てるんだいアリクイ君。さっさと起きな、愛しの先輩ちゃんが待ってる」
体を揺らされ、その胡散臭い声で、深く沈んでいた意識が、一気に引き上げられる。
目を開け、周りを確認する。全身に纏わりついていた痛みは、綺麗に消えていた。皿谷ちゃんは、澪影先輩と何やら楽しげに話している。
「おいおい、そんな起きて直ぐにマジマジと見つめるなんて、君ってやつは本当に若いねぇ」
仰向けになった僕を、訝屋は覗き込む。ゆっくりと全身を起こせば、まるで先程までの死地が嘘みたいに、身体は軽かった。
「これは……依さん?」
「いや、俺には人間の傷を癒すなんて所業は出来ないよ。それは人の理を外れている行為だ。」
だから、そんなことが出来るのは。
「神さまさ。ひとつ間違えば殺されてただろうけど。神様とやらは、全てが終わった後、結論から俯瞰して君にお礼をしたんだろうよ」
なんとも身勝手な神様だ、と。
罰当たりな感想が頭をよぎる。
「コイツも無事回収できたし、これにて一件落着ってところかなぁ」
訝屋はそう言って、この事件の根本たるカラクリ仕掛けの箱を僕に見せた。訝屋から以前見せられたそれと比べやはり一回りほど大きい。
まぁ、早めに手を打てて正解だったよ、と彼は言う。
「……××、良かった。無事なんだな」
「アリクイさん!やっとお目覚めですか!」
僕が起き上がったことに気づいた2人はコチラへと寄ってくる。澪影先輩は早かった。皿谷を置き去りにして、そのままの勢いで僕を抱きしめた。
「馬鹿、死んだらどうするんだ」
無様にやられる姿を、ずっと見ていたのだろう。もう少し格好がつけば良かったのだけれど、二度ほど壁へ叩きつけられただけだ。
「死んだら。化けて出てきますよ」
更に強く抱き締められる。馬鹿が、大馬鹿者が、と彼女は耳元で叱責する。
「本気で心配したんだぞ」と。
彼女が落ち着くまで、
僕は耳元で散々罵られ続けた。
彼女が落ち着いたところで、
一つ咳払いをして皿谷ちゃんが口を挟む。
「取り乱した。申し訳ない皿谷ちゃん」
「いいんですよ、いいんですよ。私だってアリクイさんを心から心配したんです。お気持ちは分かりますとも。えぇ。えぇ」
訝屋は、面白そうに僕を眺めた。またろくでもない適当な事を言いたくてウズウズしてるに違いなかった。言われる前に、僕は先手を打つ。
「これで恩は返せたでしょうか、先輩」
あの日僕を引っ張りあげてくれた恩人に問う。何でも出来てしまう彼女に、恩を返せる日なんて来ないと思っていた。彼女の安堵と慈愛の表情を見て、満足感に浸る。
「十分過ぎるお返しだ、大馬鹿者」
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