うごうごベイビー013
「 回答編だぁ、なんて大それた事を宣うつもりは毛頭ないんだけれど、この俺が今回の事の経緯を顛末を整理して、語ってあげようじゃないか。
出血大サービスも良い所だよ、もしアリクイ君が原因だったら、君が気づくまで俺は何もしなかっただろうけれど、今回のお嬢ちゃんは事情が事情だ。
男女差別だ?依怙贔屓だ?そんな事は知ったこっちゃない、彼女のお腹を見な、期限は目前に迫ってる。
まずはコトリバコについて語ろうかな。
コトリバコ。俺が語るのも憚る製法から生まれた、“願いの成れの果て”。その起源は1860年代後半、イメージできないだろうね。すっごい昔の物だよ。
元々は迫害や生活困窮に苦しむ集落で、搾取された側が積もり積もった恨みを晴らすために、子供や女性を贄にして作られたものらしい。
少なくない贄を差し出して、相手方の子孫を根絶やしにする。
諸刃の剣だよね、人を呪わば穴二つなんてのはまさにその通りだよ。穴2つはHな意味じゃないからね、アリクイ君誤解しないように。
さて、お嬢ちゃんだ。こと澪影 灯火ちゃんは、前々から件の箱については、おおよそ当主であるお父さんかな? その辺から今回の箱のことは聞いてたんだろう?
願いを叶えるラッキーアイテムとしてではなく【この神社で抑えるべき邪悪な呪物】として。
コトリバコなんて名前は、そりゃ嫌われる。製法から使用まで、倫理観の欠片もない禁忌だからね。
だから、その名をユメミバコと変えて伝えられていった。
アリクイ君のベッタベタななつき度から推察するけれど、君から見た彼女の通り、彼女は人生どんな理不尽があっても他人に復讐だったりをする人間じゃなかったんだろう。
お家を継ぐことへも前向きで誇りを感じてたかもしれないね。平生であれば邪悪なアンラッキーアイテムに唆される事なんて無かっただろうし、お嬢ちゃん自身ましてや他者を加害する人間だなんて毛ほどにも思ってなかっただろう。
それでも、つい3日前、願ってしまったんだよ。
いや違うね、明確な意志を持って呪ったんだ。
何故、私じゃないのか。あの人の隣に居続けたい。愛してもらいたい。子供さえいれば、振り向いてもらえるのか。今の妻が、邪魔だ。
【あの人の妻になり代わりたい。あの人の子供が欲しい】」
澪影先輩が、小さく息を呑んだ。
「……ちが、」
否定は最後まで続かなかった。
「コトリバコは赤子の魂と、その身体の一部を。三日三晩かけて、柏田婦人から奪った。それを、お嬢ちゃんの腹へ移し替えたんだ。
彼女は、偶然巻き込まれた被害者なんかじゃない。自損事故でも、不幸な事故でもない。
加害者だよ。」
澪影先輩の指先が、タオルケットを強く握った。
「子を盗り、その子々孫々の可能性を潰していく呪い。だから、コトリバコ。そして、その呪った術者すら、盗った子を産むことすら出来ず、コトリバコの呪いで息絶える。
考えてみれば当たり前だよね、十月十日掛けてゆっくり耐える工程を他人へたった三日三晩で移してしまう。赤子も。母親として抱いた願いも。そこへ至るまでの苦痛も。全部移し替えてしまう。
人間なんかじゃ、到底耐えきれないよ。
無垢な赤子の、“生きたい”って願いを。ここまで悪用してしまう。……流石の俺でも、コレを考えた奴とは仲良くなれそうにないよ。
まぁここまで散々脅すような話をしたわけだけど、引っかかっていた点が他にもあったはずだろ?アリクイ君。
そう、何故澪影 灯火はこの3日目まで無事だったのか。
それはこのままだと何度儀式をやっても失敗する理由と被るところがあるんだけど、掻い摘んで説明してあげようじゃないか。
澪影 灯火。お嬢ちゃんは霊験あらたかなこの地域最大の大社の出だ。彼女にきいても古いだけだと言っていたんだけれど、元を辿ればどうやらこの街を横断するあの河川のその源、水神を祀っている一族らしい。なにか心当たりありそうな顔をしてくれるじゃないか、アリクイ君。
幸運な事に彼女には、いや彼女の一族はみな水神様の加護を受けている。神様ってのは気まぐれだからね。どこまで人間へ干渉してくるか、正直読めない。彼女らが祀るソレは俺が相対して来た怪異としてのそれらに比べて、かなり人間びいきな位置にいるみたいだ。
だから、呪われた相手だけじゃない。呪った側すら食い潰す、共倒れ前提の呪いから。本来なら受けるはずだった、十月十日の苦痛を受けず、願った子供だけを腹に宿すことができた。
虫がいい話だろ。神様が、呪いの“都合の悪い部分”だけ、弾いちまったんだよ。
そして、その加護というか過保護が目下最大の懸念なんだよ。俺たちが今から行おうとしているのは、呪いを元の場所に戻して、解体。この方法が現状もっともお嬢ちゃんの生存率が高くて現実的な方法だと、俺は考えてる。
でも、アレは“呪い”だ。だから今度は逆に、お嬢ちゃんの加護と噛み合わない。取り替えが上手くいかない可能性の方が高い。
……まぁ、理解できなくてもいい。要するにだ。アリクイ君。そして皿谷ちゃん。」
訝屋は茶化すのをやめた。部屋の空気が、重たくなる。
「ここまで言ったら、もう分かるだろ?」
「邪魔なんだよ、神様って奴が。」
訝屋は、心底うんざりしたみたいに言った。
「だから10秒だけでいい。俺が儀式をやる間、君たち2人には——この街を統べる水神の足止めを任せたい」
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