もぐもぐキューカンバー003
「……待ってください」
圧に押される。でも。
「今、それですか。先にこの子でしょう。親御さんだって心配してるかもしれません。」
〝黒い手〟について依さんから聞かれた俺は返す。
今優先すべきはあの黒い手では無く、少女のはずだ、と。
そう思っている。
……けれど。
それと同時にあの黒い手の事を僕は、話したくない。
厳密には溺れたあの時、引きずり込まれそうになったあの時に見てしまった黒い手と、その先の××。
思い出しかけて、やめる。
「顔に出てるよ。少年」
依さんは口角を上げながらそう言う。
この人は本来こう笑うんだろう。先程までの雑談とはまた表情が違う。
「順番はどっちだっていいよ。でも、聞いときたいんだ。仕事だからね。少年からすれば勿論その方が合理的に見えるのもわかる。黒い手の件は俺個人の興味というか、お仕事に関わるから聞きたいんだ。今はそういうことでいい。ただ、彼女はほら」
そう促され皿谷ちゃんへ目をやると、彼女は青ざめた表情で
「警察はダメです。……親も、大丈夫です。放っておいてください。大丈夫ですから」
と声を震わせ、腕を抱いて縮こまる。
「理由は……わかりません。でもダメなんです」
こうも押されては何も出来ない、しかし解決にならない。しかし年端もいかない少女が親元を拒むなんて。
……普通じゃない。
「おじぃちゃんやおばぁちゃんだったら、大丈夫かな?どの道記憶喪失になった君をここに放置する訳にもいかない」
「それなら」
と細く返してくれたものの
「でも、思い出せません」
と彼女は言う。
「そういう事で、少年の話が聞きたいんだよ。知ってること、全部。そして約束する、君の話が今件を解決する大事な糸口になる。」
……関係あるのか?
「救うなら。最後までだ」
……ズルいだろ。
「わかりました。でもすこし感情的になってしまうかもしれませんが」
「若いんだから、それくらいでいいんだよ。それじゃぁ、拝聴させてもらおうかな」
そう訝屋 依は僕に目線を合わせる。
喉が重かった。それでも僕は、口を開く。
あの黒い手と、その奥の××の事を。
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