うごうごベイビー011
「柏田の事、訝屋さんに話したんですね」
「あぁ、なんだかあの人には隠しても無駄な気がしてきてね。……君が心配するようなセクハラ紛いの事は無かったから、安心してくれていい」
取り越し気苦労で良かったと思いつつ、僕には女子高生と教師の大恋愛にちゃちゃを入れない訝屋を想像出来なかった。それ程に二日酔いが効いているのかもしれない。
「それで、この事件の真相だっけ」
そう澪影 灯火は重そうなその下腹部を抱くようにして、ヨイショとこちらに向き直った。最後にみたあの儀式の時より、更に一回り大きく成長している。
「ここには、人の赤ちゃんがいるみたいなんだよね。一体誰の子なんだろうね」
そうやって愛おしそうに下腹部を撫でる。当事者たる先輩がわかっていない訳がなかった。
「質問させてください。先輩には触れられたくない話題かもしれませんが、それでも僕は貴方に死んで欲しくは無いんです。聞かせてください」
静かに頷く彼女に、一呼吸おいて続ける。
「先輩と柏田がお別れした2ヶ月前、原因は柏田の家庭に子供が出来たから、だから柏田はケジメとして澪影先輩との関係に終止符を打った。合ってますか?」
「律儀な人だよね。花の女子高生を好きに出来る機会なんて、今後一生無いかもしれないのに。コレでもある程度は容姿とスタイルには自信あったんだけどな。」
そう到底彼女には似合わない皮肉を、苦虫を噛み潰した顔で語る。
「そこで先輩は、実家に代々言い伝えられた、いやこれは言い過ぎかもしれませんね。噂程度、子供だましのおまじない程度に、厳正には伝わらなかったユメミバコの言い伝えに縋ったんです。偶然巻き込まれたのではなく、自ら巻き込まれに行った。そのユメミバコへ願ったんじゃないでしょうか。」
もし先輩が。〝終わらせたくない〟そう願ってしまったのだとしたら。
子供でも、家族でも、どんな形でもいいから、あの人との繋がりが欲しいと願ってしまったのだとしたら。
ユメミバコは、その歪な願いを叶えてしまったとしたら。
それが、僕の辿り着いた答えだった。
「そう、だったのかもしれない」
澪影先輩は、自分に言い聞かせるみたいに呟いた。
「私はあんなにぐちゃぐちゃになったのに。あの人だけ、何事もなかったみたいに戻っていくのが……嫌だった」
澪影先輩の声が、少しずつ掠れていく。そんな声を、
僕は初めて聞いた。
失恋して。
三日三晩、腹の中で育ち続ける“何か”に怯えて。
その上、命の危険まであると言われている。
澪影先輩は、膝を抱えたまま俯いた。しばらくして、被ったタオルケットの向こうから、小さく息を呑む音だけが聞こえた。
彼女の隣に座った。肩へ、少しだけ重みが乗った。その重さを、僕は拒めなかった。
目を拭き擦れる音も、鼻をすする音も、堪えきれず漏れる声も、何も聞こえない振りをした。
時間が経ち、落ち着いた先輩はタオルケットから顔を出す。泣き腫らした顔を隠しきれないまま。
「少しくらい、困ってくれても良かったのにな……。あぁ、でも死にたくは無いなぁ………。」
「……ほんと、馬鹿」
少し笑って、澪影先輩は俯いた。
「自業自得だよ」
胸の奥が、鈍く痛んだ。
「好きになって。勝手に苦しくなって。こんなことになって。後輩まで巻き込んで」
全く、先輩失格だよ。と。
「本当にごめん。でも、助けてくれないか××」
僕に、断る理由なんてあるはずもなかった。
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