うごうごベイビー005
「じゃぁ、早速で悪いんだけど、アリクイ君。ちょっと手伝って貰ってもいいかな。」
僕は訝屋の言うように畳一面に新聞紙を敷き詰め、その上にコピー用紙を隙間なく埋めていった。そんな感じそんな感じと、訝屋施工管理は満足気である。
「そしたら、ここからは俺の仕事だから少し待っいてくれるかな。アリクイくんは折りたたみの机2台くらい持ってきてて、後で使うから」
そう言われ、僕らは部屋を出された。
「なんか、大事に巻き込んでしまったみたいだな。申し訳ない」
「いえいえ、良いんですよ。先輩には日頃からお世話になっていましたし、恩返しさせてください」
「そう、言ってくれると少しは気が楽になるよ。ありがとう。」
彼女は俯く。
「思っていたよりも状況が切迫していることを伝えられて、自分の見立てがいかに甘かったかを知ったよ。もっと早めに動くべきだった。もっと早めに誰かを頼るべきだった」
人を頼るのはいつになっても苦手なんだけれど、と彼女は付け加える。
「でも、あんなに真っ直ぐお説教してもらったのは久しぶりだったよ。訝屋さんは、とても厳格な方なんだな。彼の価値観には見習うべきところがある」
歩けばちゃらんぽらんと音がしそうなあの訝屋 依が厳格であると評されるのは甚だ可笑しいが、彼女にはそう見えているのだろう。不動先輩は年上の男性に対する好感度にバイアスがかかる傾向があるのかもしれない。
「さぁ、出来たから入ってきていいよ」
訝屋が招きいれたその部屋は、もう既に儀式の会場として十分な雰囲気を醸し出していた。部屋の隅々に貼られた怪しいお札に、至る所に立てられたロウソク、床には陣のようなものが書かれ、中央には先程僕が持ってきた折りたたみの机が2つ。厭に本格的じゃないか。
「アリクイくんは、そうだなぁ僕の後ろで邪魔にならないようにしてもらおうかな。お嬢ちゃんはこのテーブルに横になって。そうそう、そしてお腹だけでいいから、出してもらえる?」
テキパキと進めていく。これが本来非戦闘員としての怪異の専門家の領分なのだろう。きゅうりで河童を誘き寄せて、怪異に良いように蹂躙され、川へ投げ飛ばされた男とは思えない頼もしさがそこにあった。
「凄い、本格的だな」
「なんだいそりゃ、バカっぽい感想だねぇ。アリクイ君。君だって昨日怪異と対峙して痛感したはずだよ、連中は理不尽だ、人間が簡単にどうこうできるような物じゃないんだよ。それが【呪い】となればそりゃぁそれなりの準備もこちらはしないといけない。じゃなきゃ、返しに合えば俺や君だって、お嬢ちゃんみたいになるかもしれないしね」
子宮すら無い僕らに子を宿すなんて出来るわけないだろと思いつつ、それを押し付ける理不尽さこそが怪異であると昨日僕は痛感していた。いとも簡単に内蔵をぐちゃぐちゃに弄られるに違いない。
「最後にお嬢ちゃん」
「なんでしょうか」
「これからお嬢ちゃんの中にあるらしいユメミバコと、お嬢ちゃんを分離させる為の儀式を行う。あの外箱から察するに、ユメミバコってのは君らが想像するようなものより遥かに強く酷い呪いの塊だ、その核を正確に当てなきゃならない。そこでだ、なんでもいいこのユメミバコを動かしている願いはなんだとお嬢ちゃんは思ってる?」
「……分かりません。でもユメミバコ本体に触れた時強い生への執着みたいなものを感じたのは憶えています。だから、私の体に宿ったのかも」
「なるほどねぇ」
こりゃぁダメかもな、そう小さく訝屋が呟いたような気がした。
「さぁ、お嬢ちゃん。せいぜい気絶しないように踏ん張ってくれよ」
パァンと手を打ち合わせた音と共に、床の陣がロウソクの炎を吸い込み淡く燃え始める、同時に彼女が痛みに喘ぐ声が響き始めた。




