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『残憶』  作者: 毎日馬鹿
うごうごベイビー
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うごうごベイビー001

「お、おっぱいだ……!!!」

ゴールデンウィーク二日目。

初日はケツ、本日はおっぱいである。

こうも幸先が良いと、後半戦で死ぬんじゃないかという気すらしてくる。

皿谷 潜の件の川のそのずっと上流、幾つものに別れたそのひとつに僕はいた。というのも、いつぞや幼なじみと埋めたタイムカプセルの存在を思い出し記憶だけを頼りに山中の散策を単独で行っていた。そうやって背高草をかき分け進んだ先で、僕は目撃する。

大和撫子の名を体現したかのような長髪と、清楚な雰囲気そのもの。弊校弓道部部長、不動 薫先輩が、滝に打たれていた。白い行衣は水を吸って肌へ貼り付き、滝に打たれるその姿は、艶めかしいというより、どこか人間離れして見えた。

このまま覗くか、それとも今来た風を装って声を掛けるべきか。

前者は見つかれば社会的に死ぬ。

後者は社会的に死なず、更に偶然を装ってその双丘を拝める。

声を掛けようと踏み出しかけて、——けれど、その姿には妙な居心地の悪さがあった。

柔和で温厚な不動先輩らしからぬ顔だった。何かに追い詰められているように見えた。その表情が、妙に引っかかった。

不動 薫は昨年のゴールデンウィーク明け、僕が人生で最大に沈んだ時期に親身になって寄り添ってくれた言わば恩人だった。あの頃の僕は、不動先輩みたいな人間を“立派な人”と呼ぶのだと思っていた。そんな彼女が、苦難の表情を浮かべている。あんな顔をされたら、放ってなんておけなかった。

僕は意を決して薮から姿を現す。あくまで偶然を装って。

「あれ??不動先輩?こんな所で何をされてるんですか」

彼女はゆっくりと目を開け、目を合わせた。

「××か。いったいなんで、こんなところに………あっ」

よっぽど集中していたらしい。彼女は慌てて手でその透けて顕になっている胸部を隠し、バシャバシャと急いで水から上がる。

普段はポニーテールへ纏めている長髪が下ろされている。その長い髪から滴り、少しだけ赤らめた頬を撫で、どうしても視線が下へ滑る。濡れた行衣越しの身体の線を追って、

——そこで、止まった。

違和感。

その下腹部だけが、まるで身体の内側に異物を詰め込んだみたいに、不自然に浮いて見えた。

不動先輩は用意されていたバスタオルに身をくるんで、やっと向き直った。

「見た?」

「……ご立派な修行でしたね、滝行なんてまだ寒いでしょう、到底真似できませんよ。ご立派です部長」

「いや、そうじゃなくてだな」

「何がでしょうか」

はぁ。と彼女はため息をつく。とぼけるなとでも言いたいように。

「あぁ、そうだったそうだった。お前はそうやって知らないふりをしてくれる奴優しい奴だったよ。でも良いんだ、気を使わなくたっていい。君はすぐ顔に出るんだよ。言わなくったってわかる」

そう言って、不動 薫はゆっくりと身にまとったバスタオルを下腹部までたくし上げる。ソレに言及しなかったのは、優しさだけじゃない。

僕は、本能的に、見なかったことにしたかった。


「見たんだろ、このお腹の事。」

その声音は、観念した人間のそれだった。

——不動先輩が、あんな声を出すなんて思わなかった。

張り付いた行衣越しでも、それは嫌というほどわかる。

彼女の下腹部は、おおよそ妊婦のそれとしか言い表せないほど、大きく膨らんでいた。

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