もぐもぐキューカンバー018
オチ、あるいは蛇足。
傷心した僕は、やけに優しい訝屋 依に夕食をご馳走された。成功報酬が出るから気にせずに食えと、町内ではそこそこ有名なホルモン焼き屋で二人で4人前を完食。あの場で大人しくしていた訝屋も少しずつ調子を戻して来たのか、酒が入ればフルスロットルで要らんことを宣うしまつ。お陰様で、今日やっと傷心出来た二股の男子高校生だと、店のスタッフに認知されるに至った。
「いや〜食べたねぇ、アリクイ君。それにしたって今回は大活躍さ、誇っていい!君は日本一だ!いよっ!色男!」
「飲み過ぎですよ、依さん。酒臭いにそんな寄ってこないでください」
めんどくさい大人がめんどくさい酔い方をしないで欲しい。寒空の下傷心した男と怪異にボコボコにされた男、ふたりでフラフラとあの不法侵入不法滞在の公民館へと歩みを進める。数分歩けばこの街を横断するあの川に着く、橋を渡る。その時だった。河川敷に小さな影が見える。まてまてまて、夜だぞ落ちたりしたらひとたまりもない。降りて注意だけでもしないと、今日の今日土左衛門を拝むなんて、絶対にごめんだった。
「ごめん、依さん。ちょっと」
飲んだくれを投げ捨てて、橋から階段を駆けて河川敷へ降りる。手首ががキラリと光った。影から小柄な人影が姿を表す。
顔を赤くした、皿谷 潜の姿があった。
幻覚でも良かった。それでも、確かめたかった。
僕は河川敷へ駆け寄って、その小さな体を強く抱きしめた。
確かに、皿谷 潜はそこに居た。
「戻ってきちゃいました、あんなに泣いてくれたのにごめんなさい、アリクイさん」
「ゴメンなわけあるか、良いんだよ好き勝手でわがままでいいんだ、それが許されてしかるべき歳なんだから」
少女は少し困ったように笑った。
「顔ぐじゃぐじゃじゃないですか」
酔いが冷めてきた訝屋 依曰く、こういうことらしい。
元々皿谷 潜は河童ではなく地縛霊のようなものだった。土地に縛られ、時間を縛られ、死にながらにして制約を受けて留まり続ける存在だった。それが1年前のあの日水死体へと変質し河童へと成り果てた。尻子玉の中には少女の地縛霊の部分は込めることは出来なかったらしい。そして少女の強い記憶と思いの部分は彼女の中へと戻り、河童の部分は砕け散った。しかし地縛霊であった時の土地は土砂崩れによって河川を中心としたこの街一体にばら撒かれた。そして何より、たった1日、それでも少女にとってかけがえのない1日だった今日、この街全体との縁ができた。そうやって地縛霊として復活した。
「まぁ要するに、今の皿谷ちゃんは普通の幽霊だ。見える人間にしか見えないし、自分から人を害することもない。」
ベンチで寝転びながら、訝屋は解説をそう締めた。
「それとコレ、幼なじみさんから頂いたんです」
少女は僕の方へ腕を突き出し、年季が入ったブレスレットを見せる。
「もう少しだけ、アナタのそばに居たかったようで。思い出してくれるように、と託されました。だから、また遊んでください。また、教えてください。この街のこと、あなたと幼なじみさんの事も」
あぁ勿論だ、と僕は笑う。川の音は、もう怖くなかった。
手始めに春の星座でも教えてやろうか。
もぐもぐキューカンバー (了)
※この画像は生成AIにより出力されたものです。
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